株式会社博報堂
シニアビジネスフォース・新大人研所長
2004年博報堂入社。
トイレタリー、食品、自動車、住宅・人材サービス等様々な業種のマーケティング・コミュニケーション・商品・サービス開発に携わる。2015年より新大人研のマーケティングプランナー兼研究員として、シニアのインサイト研究やマーケティング業務に従事。2019年より新大人研所長に就任。共著に『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)
進化する 令和シニアのスマートライフ」11回目は、株式会社博報堂 シニアビジネスフォース 新大人研 安並 まりや所長から寄稿いただきます。令和シニアのウェルビーイングを高める鍵となる「夢中のチカラ」を、大規模調査の結果を交えてわかりやすく紐解いていただきました。
進化する 令和シニアのスマートライフ」11回目は、株式会社博報堂シニアビジネスフォース 新大人研 安並 まりや所長から寄稿いただきます。令和シニアのウェルビーイングを高める鍵となる「夢中のチカラ」を、大規模調査の結果を交えてわかりやすく紐解いていただきました。人生100年時代を、自分らしく心地よく楽しむヒントが詰まった内容ですので、ぜひウェルビーイングマーケティングの視点から、令和シニアのスマートライフをお楽しみください。
第11回 令和シニアのウェルビーイングを高める「夢中のチカラ」
―博報堂生活者発想技術研究所とWOWOW「夢中のトビラボ」共同研究レポートより―
博報堂とWOWOWが行う「夢中な大人」研究
現在の日本は、2人に1人が50代以上という、世界で最も高齢化が進んだ国の一つです。一方で、日本は「100歳まで生きたい」と願う人の割合が、他国と比較して顕著に低く、生きたくないのに生きてしまうという課題を抱えています*¹ 。
私は博報堂で「新大人研」という50代からの大人世代を調査・研究するプロジェクトを10年ほど行っています。年を重ねると経済や健康の課題や、できないことが増えていく中で、いくつになっても希望や楽しみを見つける力は、人生100年時代を生き抜くにおいて重要です。そんなきっかけをマーケティングやコミュニケーションから作ることを目標として活動しています。株式会社WOWOWは、中高年を元気にしたい、ウェルビーイングをエンタメの力で高めたいという想いから「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」というパーパスを制定しました。ただパーパスをつくるだけでなく、大人世代の夢中に関する知見を溜める研究組織「夢中のトビラボ*²」を設立しました。新大人研とその所属組織である生活者発想技術研究所*³は、令和を生きるシニアのウェルビーイングを高める鍵として「夢中」というテーマに共感し、共同研究を行っています。本稿では、共同研究で執筆した二つのレポートから、シニアのウェルビーイングを高める「夢中のチカラ」について解説します。
大人世代のウェルビーイングの鍵は、「自分軸の夢中」
「夢中」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?辞書の定義では「物事に熱中して我を忘れること。正気を失うこと、そのさま*⁴」とありますが、私たちは夢中が持つ意味や可能性はもっと大きいものなのでは、と思い、デスクリサーチやワークショップを通じて仮説を作り、大規模調査で検証しました。
本調査では、大人世代のウェルビーイングを探究するために、二つの「夢中」を定義しています。一つは、単に「とても好きで、ある程度時間をかけているものごとがある」という状態を指す、「夢中」。そしてもう一つが、他人の評価に左右されず、自分が本当に楽しめるかどうかを重視する姿勢を指す「自分軸の夢中」です。

調査の結果、「夢中なものごとがある」人は日本全国の20-74歳の約2人に1人いることが分かりました。さらに大人世代(50-74歳)における「自分軸の夢中」を持つ人は22.6%、全体(17.3%)と比べ高いことが分かりました。夢中なものごとの種類は多岐にわたり、平均個数は4.9個にのぼります。AIを用いた自由回答分析では、夢中の在り方が非常に「ロングテール」に分布しており、まさに夢中は「個性」の表れそのものであると捉えられます。

また「自分軸の夢中」を持つ人は、そうでない人と比較して人生の満足度が約2倍高いことが判明しました 。さらに興味深いことに、自分軸の夢中を持つ20-40代のスコア(57.6%)よりも、50-70代のスコア(65.1%)の方が高いことが分かりました。他の主観的ウェルビーイングスコアにおいても同様で若者層よりも大人層のスコアの方が高いという結果でした。
大人層の方が自分軸の夢中を持つ人が高かった理由について、いくつかのことが考えられます。人生経験を経て価値観が安定し、他人の意見や視線に左右されにくくなったのかもしれません。また歳を重ねることは成功もあれば失敗や挫折も経験します。理想と現実のギャップを感じたり、その中で折り合いのつけ方を模索する中で現状の自分を肯定し、自分軸を持つに至ったということも想定されます。


夢中はふたつの孤独を解消する ―二重の孤独解消モデル―
大人世代の「孤独」は深刻な社会的課題ですが、本調査からは「夢中」が孤独の質をポジティブに変容させている姿が見えてきました。
まず一つは、「孤独(Loneliness/寂しさ)の解消」です。夢中なものを持つ大人の約半数(49.3%)が、それを通じて人間関係が広がったと実感しています。例えばジャズピアノに夢中な60代女性は交流の広がりについてこのようにコメントしています。「レッスンを受け、ジャムセッションに参加して皆で演奏すると、様々な人との交流がある。共通の話題があるので、ゴシップやプライバシーに入ってくるような嫌な人間関係にならない」このように、夢中なものごとを「媒介」にすることで共通の話題や共感が生まれやすくなり、無理のないポジティブなつながりを形成するのではないかと思われます。
もう一つは、「孤独(Solitude)の獲得」です。大人世代の8割以上(82.7%)は、夢中なものごとに「一人で」取り組んでいます 。しかしながら、夢中な時間はポジティブな影響の方が圧倒的に高く、約6割は「楽しいと思う時間が増えたと回答しています。この楽しい一人時間は、寂しさからくる孤独ではなく、周りのノイズを遮断して自分とポジティブに向き合う豊かな時間の獲得を意味しているのではないかと分析しています。

50代からこそ始める「夢中育」のススメ
今回の研究を通して見えてきたのは、大人世代にとっての夢中は、瞬間的な「熱狂」だけでなく、日常の中で「マイペースに時間をかけて」じっくり堪能する豊かな時間であるということです。多くの大人世代は、心のどこかで「年甲斐もない」という自制心や、社会的な役割に縛られた固定観念を抱えているかもしれません 。しかし、本調査では「好きなものごとに夢中な大人」を「素敵だ」と感じる人が7割を超えており、周囲はむしろその姿をポジティブに受け止めています 。
自分自身の内なる声に耳を傾け、「自分軸」の好きを解放することは、個人のウェルビーイングを高めるだけでなく、経済的にも大きなインパクトを与えます。自分軸の夢中を持つ50-74歳の層だけでも、年間3.6兆円規模の市場を形成していると推計されます。
50代からでも遅くはありません。幼い頃に好きだったものを再発見したり、日常の些細な楽しみに目を向けたりして、種を植えて育てるように「夢中」を見つけ、育んでいくこと。この「夢中育」こそが、人生100年時代をより豊かに、より楽しく過ごすために有効なライフスキルのひとつ言えるのではないでしょうか。
*¹100年生活者研究所 https://hakuhodo-rdc.com/100years_lab/posts/100report230915/
*²WOWOW夢中のトビラボ https://corporate.wowow.co.jp/company/muchulabo/
*³生活者発想技術研究所 https://hakuhodo-rdc.com/posts/rdc_introduction/
*⁴コトバンク https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A2%E4%B8%AD-641925
夢中のチカラ調査《調査概要》
調査手法:インターネット調査
調査対象:
Vol1. 20-74歳 男女 18,000名
Vol2「自分軸の夢中」を持つ50–74歳 男女1,500名
※5歳刻みの性年代ごとに均等回収し、人口動態に合わせてウェイトバック
調査地域:日本全国
実施期間:2025年3月1日(土)~2日(日)
調査主体:株式会社博報堂 生活者発想技術研究所、株式会社WOWOW WOWOW 夢中のトビラボ
調査委託先:株式会社マーケティングアンドアソシェイツ
AI分析委託先:Adan AISolutions
「夢中のチカラ」レポート
Vol1:https://hakuhodo-rdc.com/posts/news_250619/
Vol2:https://hakuhodo-rdc.com/posts/news_251017/
バックナンバー一覧
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· 第4回「第4回「令和シニアの検索トレンド(2025年上半期)」」
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