令和シニア研究所 リーダー
10年以上にわたりデザイナー・ディレクターとして運用型広告に携わる。
現在は、テレビCMやWebCMなどの動画広告を中心に、クリエイティブディレクションに従事。確実に広告成果を上げる運用型テレビCMを得意とする。
2024年に「令和シニア研究所」を立ち上げ、シニア層のデジタルメディア活用やオンライン行動を分析。令和時代のシニアライフが活発で多様であることを明らかにし、シニア層向けのマーケティング活動を推進している。
2025年6月発表の総務省情報通信政策研究所の最新調査によると、この1年間でさらに60代のネットの平均利用時間が伸びています。60代の平日のネット平均利用時間は前年より17.6分増加、直近2年間で28分以上の増加が見られます。
第9回 令和シニアのSNS最新動向2025—
なぜ60代にInstagramが選ばれているのか
2025年6月発表の総務省情報通信政策研究所の最新調査によると、この1年間でさらに60代のネットの平均利用時間が伸びています。
60代の平日のネット平均利用時間は前年より17.6分増加、直近2年間で28分以上の増加が見られます。一方、テレビ(リアルタイム)視聴は前年比30.3分、2年間で43.1分減少しました。
また、50代は微増(前年比:ネット+7.2分、テレビ−4.2分)、70代はほぼ横ばい(ネット+3.2分、テレビ+6.1分)にとどまっています。
この2年間は、60代のネット利用時間が大きく伸びた“転換点”といえ、60代のスマートフォン利用率が9割に到達し、単に所有しているだけではなく、 “テレビ中心の生活”から“ネット中心の生活”へ移行しつつあることが伺えます。

出典:令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書|総務省情報通信政策研究所|総務省|2025年11月閲覧
60代のSNS利用が大きく伸び、特にInstagramが顕著
同調査では、年代別のSNS利用率についても触れられています。主要サービスのうち、「Instagram」は前年より全年代で大幅に増加。利用率が最も高いのは20代の78.0%ですが、60代の利用率は顕著な伸びを示し、2023年度22.6% → 2024年度34.7%と+12.1ポイント上昇しました。男性に比べて女性の利用率が高いのもInstagramの特徴とのことです。
同時に、YouTubeの利用率は60代において5ポイント近く上昇し、71.2%に到達。10〜40代ではすでに90%を超える高水準が続いていますが、前年比では横ばいで高止まり、60代の利用率の伸びが顕著です。
TikTokも18.8%と緩やかに増加し、動画視聴習慣の広がりがSNS全体の利用を押し上げているといえます。
LINEは依然として20〜60代までは90%超の利用率を維持し、X(旧Twitter)は22.1%と横ばい傾向です。
一方で、70代では主要サービスの利用率が全体的に低く、LINEもYouTubeも60代と比較して明確に下回っていることがわかります。

出典:令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書|総務省情報通信政策研究所|総務省|2025年11月閲覧
なぜInstagramが令和シニアに選ばれるのか
LINEやYouTubeといった主要プラットフォームが世代を問わず普及するなか、Instagramも60代の約3人に1人が利用するメディアにし、「若者のSNS」という従来のイメージは薄れつつあります。
では、なぜ令和シニア世代で Instagramが急速に広まっているのでしょうか。
①直感的でやさしい設計
Instagramの特徴である、操作が直感的で“見るだけでも楽しめる”設計が令和シニアに受け入れられているのではないでしょうか。
写真や動画が中心で、文字入力や複雑な設定をほとんど必要としないため、スマートフォンでの文字入力や、小さい画面での長文読解を(老眼などの影響で)やや苦手とするシニア層でも、ストレスなく利用できるの点が好評です。
またInstagramは、興味関心にもとづく投稿が自動で流れてくる“発見型SNS”です。フォローしていないアカウントの投稿でも、趣味や嗜好に合った内容が自然におすすめ表示されるため、はじめたばかりの初心者でもすぐに楽しめます。一方、Facebookは、友人や知人とのつながりを前提にした“ネットワーク型SNS”で、基本的に自分のフォロー範囲の投稿が中心であり、発見タブのような機能も限定的です。
② 趣味・ライフスタイルとの親和性
Instagramには、旅行・料理・ファッション・園芸・健康情報など、60代女性の関心に合致したコンテンツが豊富に存在します。
令和シニア研究所(2024年)の調査でも、子育てがひと段落し、定年を迎える60代前半の女性が「自分のための時間」を取り戻し、趣味やライフスタイルに積極的に時間とお金を使う傾向が顕著に見られます。
こうした“余白時間”の拡大が、情報探索や学び直しなどの行動を生み、Instagramがその主要な受け皿となっていると考えられます。


※画像出典:令和シニア研究所(HakuhodoDY ONE)「令和シニア白書 ver.1.0」令和シニアの行動①新しくはじめたこと
※画像出典:令和シニア研究所(Hakuhodo DY ONE)「令和シニア白書 ver.1.0」令和シニアの行動②趣味ごとに時間もお金も費やす
近年では、観光庁が2025年に公式Instagramアカウントを開設するなど、官公庁や自治体の公式情報の発信拠点としてInstagramを活用する動きも広がっています。
たとえば、大阪・関西万博(EXPO 2025)の公式アカウント(@expo2025japan)は42万人超のフォロワーを抱え、同万博のX(旧Twitter)を上回る規模に成長しています。
観光・文化・地域イベントなどの生活に密着したテーマを、写真や短尺動画でわかりやすく伝える投稿が増えたことで、「公式情報をInstagramで探す」という行動がシニア層にも自然に根づきつつあると言えます。
③安心・ポジティブな世界観
Instagramは信頼性の高い公的なアカウントも多く、他SNSに比べて政治・批判・炎上系コンテンツが少なくポジティブな世界観のため、安心して“情報を見つける”ことができる生活情報メディアとシニア層にも捉えられている一面もあるのではないでしょうか。
令和シニアの女性にとってInstagramが“安全で使いやすい情報収集の場”であるという安心感が、利用拡大を後押ししていると考えられます。
④動画視聴文化の定着と“推し活”
YouTube、Instagram、TikTokなど動画視聴メディアの利用率の伸びからも分かる通り、ここ数年で、シニア層にもデジタルメディアでの動画視聴が定着しているようです。
TVerの月間ユニークブラウザ数(MUB)は4,100万を超え、月間動画再生数も約4.9億回と過去最高を記録しています。また、AV Watchの調査では、50〜64歳が全体の約30%を占め、10〜60代の女性で利用率が相対的に高いとされています。
こうしたデータからも、動画メディアが若年層だけでなくシニア層にも広く受け入れられている状況が見て取れます。
この“動画慣れ”は、Instagramでの行動にも影響しているのではないでしょうか。たとえばテレビ番組の公式アカウントが短尺の予告動画やメイキング映像をInstagramで発信するケースが増え、視聴者が自然とその投稿に触れる機会が増加しています。
TVerでドラマを見た後に出演俳優や番組公式のInstagramをチェックする──そんな「視聴→SNSでの補完」という行動パターンが、自然と令和シニアのInstagram利用を後押ししていると言えます。
さらに、 “推し”の最新情報を追うための情報メディアというだけではなく、投稿をしなくても、好きな俳優・番組・ブランドをフォローして動画を“見るだけで応援できる”推し活ができるのも特徴です。これがシニア層にとっても、無理のないSNS利用の入り口の一つとなっているのかもしれません。
出典:PRTIMES「【TVer】月間ユーザー数・月間動画再生数 2か月連続で過去最高記録更新」2025年11月閲覧
出典:AV WATCH「 TVerの月間再生数が初めて4.9億回超に。テレビ利用も36%」2025年11月閲覧
マーケティングでのSNS活用
InstagramやYouTubeなどをはじめとするSNSや動画メディアが「シニアにも届くメディア」になったいま、マーケティングでの活用も十分検討できるようになりました。
ただし、利用率は十分に高まってはいるものの、シニア層を対象にする際に注意が必要なのが、若年世代と比較して受動的試聴の傾向が強い点です。
Instagram(Meta) の広告の仕組みでは「関連度スコア」や「エンゲージメント(いいね・コメント・保存など)」が成果や配信コストに大きく影響するとされています。
しかし、シニア層は若年層に比べて「いいねを押す」「コメントする」といった能動的なアクションが少なく、“眺めるだけ”の利用が多いと推測されます。その結果、反応率の低い投稿は関連度スコアが下がりやすく、CPM(インプレッション単価)が上昇したり、配信効率が落ちたりするリスクが生じます。
そのため、視認だけでも価値を感じてもらえるようなクリエイティブ設計(例:一枚絵で完結する、動画で“見るだけ”でも内容が伝わるような構成)や、エンゲージメントが少ない場合でも効果を最大化できる配信予算・入札戦略を設計するなど、工夫が求められます。
また、60代の3人に1人がSNSを利用するようになったとはいえ、若年層とまったく同じ行動を取っているわけではありません。
媒体アルゴリズムの特性と世代行動の違いを理解したうえで、それに合わせたコミュニケーションを設計していくことが、これからのシニアマーケティングには不可欠です。
バックナンバー一覧
· 第1回「急伸長するシニアのデジ活」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-01
· 第2回「シニアの『世代』が変化している?〜かつて『新人類』と言われた令和のシニア」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-02
· 第3回「令和シニアの1日〜60代のメディア接点〜」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-03
· 第4回「第4回「令和シニアの検索トレンド(2025年上半期)」」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-04
・第5回「注目を集めるシニア世代のインフルエンサー「グランフルエンサー」」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-05
・第6回「シニアは本当に節約思考?——令和シニアの「現役感」あふれる消費ポテンシャル」
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・第7回「60代に人気のサービスは?最新行動データからひも解く令和シニアのWeb・アプリ行動〜Webサイト編〜」
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-07
・第8回 日本の中高年はゲーム好き?最新行動データからひも解く令和シニアのWeb・アプリ行動〜アプリ編〜
https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/senior2025-08







