代表取締役 / メディア・ストラテジスト
大学では機械工学・生体医用工学を学び、国内広告プロダクションでプランナーとしてのキャリアをスタート。国内・海外大手メーカーを中心に約50社以上の広告プランニングに関わり、自動車、保険、金融、飲料、食品、化粧品、半導体、インフラ、官公庁等、手掛けたキャンペーン数は200キャンペーンを超える。2019年まで外資系広告代理店でメディアプランナーとしてプランニング部門をリードし、その後、広告メディア戦略立案に特化した株式会社VOSTOK NINEを設立。
今回は広告の巨人、デイヴィッド・オグルヴィの数ある名著から一冊をご紹介したいと思います。壁にぶつかり「広告、辞めたい」と思った時に効く、最強の処方箋になるかもしれません。
今回は広告の巨人、デイヴィッド・オグルヴィの数ある名著から一冊をご紹介したいと思います。壁にぶつかり「広告、辞めたい」と思った時に効く、最強の処方箋になるかもしれません。
まずはお詫びというか、ちょっとした告白から始めさせてください。広告業界に身を置いて十数年。恥ずかしながら、30代半ばになるまで本コラムのような”業界の良識”に触れてこなかった人間です。ようやく意識が芽生えて読み始めたのは、ここ10年ほどのことでしょうか。ですから、今この瞬間にこの記事を読んでいる皆さんは、間違いなく私よりも「広告愛」に溢れた、志の高いアドパーソンに違いありません。そんな皆さんに、メディア戦略を練ること以外にこれといった特技もない、業界の片隅で細々と生きながらえてきた私が一体何を提案できるのか。数週間、それこそ仕事の合間に(あるいは仕事そっちのけで)真剣に考え抜きました。数週間悩み抜いて、ようやくひねり出した答えは拍子抜けするほどシンプルでした。「なんだかんだ言って、今もこの仕事が楽しくて仕方がない」。結局、私が誇れるのはその一点だけだったのです。
この業界の荒波を泳いでいると、誰もが必ずと言っていいほど直面する「二つの高い壁」があります。
一つ目は、「十分な経験を積む前に、広告そのものが嫌いになってしまう壁」。
二つ目は、「プロとしての知識をどう効率よく獲得すればいいか分からず、立ち往生する壁」。
私も数え切れないほどこの壁に額をぶつけ、そのたびに「あーあ、もう辞めてえな……」と現実逃避に走ってきました。そんなボロボロになった私の心をそっと、いや、かなり強引に引きずり起こしてくれたのが、この一冊でした。
●ある広告人の告白[新版]
デイヴィッド・オグルヴィ(海と月社)

「70年前と今とでは広告環境が全く違うから読んでも意味ないよ」なんて言わないでください。70年前にアメリカで旋風を巻き起こした伝説の男の言葉は、今のデジタル全盛時代にも、驚くほど鋭く刺さります。
◯一つ目の壁:広告を嫌いにならないために
アドパーソン同士で飲むと、必ずと言っていいほど一度は「優れた広告とは何か」という宗教戦争を経験すると思います。先輩の熱い持論に「いや、俺はそうは思わないんだけどな……」とモヤモヤし、自分の居場所を疑ってしまう。そんな貴方に、オグルヴィはこう断言してくれます。
『勝手に優れた広告の流派を作ってしまって良い』
なんて心強い。今風に言えば、「自分の信じる正解(推し)は、誰の許可も得ずに全力で推していい」ということ。世の中のトレンドや上司の定石に自分を無理やり合わせるのではなく、自分専用の「俺流」をこっそりと立ち上げてしまう。そう思うだけで、喉元のつかえが少し取れる気がしませんか?
さらに、彼はこうも言います。
『一年ほど退屈なトレーニングを続ければ、二年目の終わりには上司の後を継ぐ準備が整っている』
と。もちろん、その2年間は「死ぬ気でやれ」という前提付きですが(具体的な地獄の特訓法も本書にあります)、たった2年で景色が変わると思えば、悪くない投資だと思えてくるから不思議です。
◯二つ目の壁:プロとしての「武器」をどう磨くか
広告キャンペーンというやつは、放っておくとすぐにデコラティブになりがちです。私が一生かかっても手にできないような大金が数ヶ月で動く現場では、様々な思惑が絡み、KPIは増殖し、当初の目的すら複雑怪奇と化す。一つのキャンペーンで複数の態度変容指標を追っかけるなんてこともザラです。
そこで、オグルヴィのこの言葉です。
『キャンペーンのほとんどは複雑過ぎる』
本質は、いつだってシンプルです。複雑な迷路に迷い込んだときほど、この言葉を羅針盤にして「本当にクライアントに必要なゴールは何か」を削り出す。そのために必要な知識を一点突破で磨き上げれば、気づけばプロの領域に足を踏み入れているはずです。
もう一つ、私の指針になっている言葉があります。
『人を退屈にさせておいて、ものを買わせる事は出来ない』
「広告は芸術ではなく、売るための手段だ」と冷徹に言い放つ一方で、彼は「楽しませること」の重要性も説きます。単に騒がしいだけの作品ではなく、消費者が「これを買ったら生活が楽しくなりそう!」とワクワクするような設計。メディア戦略を立てる際も、既存の考え方に無理やり当てはめるのではなく、「どうすれば消費者がこの商品に夢中になれるか」を起点にする。そう思うと、古今東西のあらゆる理論を学ぶことも、苦痛ではなく「武器集め」の楽しみに変わります。
・・・
これ以上語りすぎると皆さんの「初読の感動」を奪ってしまうので、この辺にしておきます。本書には、この何倍ものエピソードが、イギリス人らしいユーモアと適度な皮肉、そして痺れるような美学とともに綴られています。
最後に、私の最も好きな一文を。
「家族に読ませたくないような広告は絶対に書くな」
今回、この記事を書くにあたっても「いつか自分の家族に薦めても恥ずかしくない本」という視点で選ばせていただきました。週末の数時間で読めるボリュームです。もし貴方が今、壁を感じているのなら(感じていなくても)、ぜひ一度手に取ってみてください。







