1982年博報堂入社。IT部門、事業・プロモーション領域を経て、96年日本の広告会社初のインターネット専任組織「博報堂電脳体」設立に関与。以降、統合マーケティングやデータドリブンマーケティング等を実践、デジタル分野を牽引。
2010年博報堂執行役員。11年博報堂DYメディアパートナーズi-メディア領域担当執行役員。16年博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員兼任。18年博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員、CISO兼イノベーションセンター担当。
「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」にて13年メディアライオン、16年イノベーション部門の審査員を務める。
広告主によるインハウス化は、極めて合理的な流れである。データを自社で保有し、広告運用を内製化し、制作も機動的に行う。さらにAIの進展により、分析や制作のハードルは大きく下がり、「できること」は確実に企業側へ移っている。この流れ自体を否定することには意味がない。
広告会社は再び“時代潮流をつくる存在”になれるか
広告主によるインハウス化は、極めて合理的な流れである。データを自社で保有し、広告運用を内製化し、制作も機動的に行う。さらにAIの進展により、分析や制作のハードルは大きく下がり、「できること」は確実に企業側へ移っている。この流れ自体を否定することには意味がない。
しかしその一方で、意思決定はむしろ複雑化している。生活者との接点はテレビ、コネクテッドTV、動画、SNS、店舗、アプリへと広がり、それぞれ異なる指標で評価される。短期の売上と中長期のブランド価値の間には常にトレードオフが存在し、部分最適の積み重ねでは全体としての最適解には到達しにくい。共通の物差しが揺らぐ中で、何に投資すべきかという判断は、かつてないほど難しくなっている。
ここで重要になるのが、データとAIを基盤とした意思決定である。メディア、購買、顧客行動といった複数のデータを統合し、シミュレーションや実験設計を通じて仮説を検証し続ける。意思決定は経験や直感に依存するものから、再現可能な構造へと変わっていく。この変化は広告の効率化にとどまらず、企業の成長のあり方そのものを規定する。
ではその中で、広告会社は何を担うのか。従来のように広告を制作し、メディアを手配するだけでは役割は縮小する。しかし企業の内側だけでは、部門最適や短期志向に引きずられ、全体としての意思決定が歪みやすい。ここで求められるのは、単なる客観性ではなく、企業の意思決定の質を高める「知的外部性」である。事業とブランド、短期と長期、内製と外部活用を横断し、意思決定を前に進める役割である。
同時に、クリエイティビティの意味も再定義される必要がある。クリエイティブとは単なる表現ではなく、社会とデータのあいだに新しい解釈を与え、意味を構想する力である。そしてそれを戦略として設計し、実行し、学習として回し続ける。この「構想・設計・実行・学習」を一体で担うことこそが、広告会社の本質的な価値となる。
広告会社にはかつて、「見たこともない景色を見せてほしい」と言われた。その言葉は、新しい表現ではなく、新しい成長のかたち、新しい顧客との関係、すなわち新しい時代潮流を提示してほしいという意味である。
広告会社の価値は、広告をつくることから、企業の意思決定と実行を前に進めることへと移りつつある。AI時代において、その役割は縮小するのではない。むしろ、より高度で本質的なものへと進化しているのである。









