株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
海外現地法人のマネジメント歴18年(中国・広州/香港、北米・ロサンゼルス/ニューヨーク)。アサツーディ・ケイ現地法人ADK America (WPP Group)のCFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。ニューヨークの最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。
共著に『広告ビジネス次の10年』『2030年の広告ビジネス』(翔泳社)がある。
「次世代エージェンシー」への事業投資として、人の数で稼ぐ労働集約型モデルからの転換が進む。各社が独自の「AIエージェント型マーケティング支援」「統合マーケティングAIエージェント」を打ち出し、さらにエージェント同士が接続された「AIオーケストレーション」へ向かう。
広告会社のAIエージェント収益基盤
■広告会社独自のAIエージェント花盛り
「次世代エージェンシー」への事業投資として、人の数で稼ぐ労働集約型モデルからの転換が進む。各社が独自の「AIエージェント型マーケティング支援」「統合マーケティングAIエージェント」を打ち出し、さらにエージェント同士が接続された「AIオーケストレーション」へ向かう。
グローバルではOmnicom・Publicis・WPPのメガエージェンシーから、Accenture・Deloitteのコンサル系、日本では電通G・博報堂DYG・サイバーAまで、AIテクノロジーやメディア資産を自ら保有・再販する「ソリューション所有者(プリンシパル)」への業態移行が始まっている。AI駆動の自律的な成果創出システムそのものを提供する事業体への進化である。
■AIエージェント(サービス)の収益モデルを考える
AIが「早い・安い・すごい」で競えるのは今だけだ。現在はAI企業各社が兆円単位で積み上げた先行投資を「お試しキャンペーン中」で提供しているに過ぎない。この先、広告会社が負担する実コストへと姿を変える。
すでに「AIのコンピュートコスト=トークン」がP/Lの中核に浮上している。広告会社の活動エネルギーとなる「AIトークン」を、どう原材料として安価に仕入れ、どう販売するか。そのコストはMicrosoft・OpenAI・Anthropic・Googleへの基本料に加え、利用量に比例する変動費として、今後数ヵ月〜数年のうちにエージェンシーやコンサルの提案費用の大部分に膨れ上がる。まるでCookie集積コストの再来のようだ。
■「成果連動型報酬」は理想だが
複数の専門AIエージェントが連携しマーケティングプロセス全体を自律的に回す。このサービスをグローバルにライセンス供与し、報酬をクライアントの成長率に連動させる——理想形は明確だ。ところが実コスト構造として見ると、現在の広告会社のAI収益モデルは下記の4つに収斂する。
① 吸収型(自社負担):AI利用を販管費として処理し、クライアントには請求しない。
② パススルー型(実費転嫁):交通費と同様、実費分を伝票課金する。
③ サブスク型(バルク販売):一括仕入れした「生成クレジット」をボリュームディスカウントで提供する。
④ プラットフォーム型(SaaS課金):独自AIプラットフォームの利用度に応じて課金する。
総合エージェンシーは③——「シニア人材+AIワークフロー+オーケストレーション」のパッケージを月額契約で提供する傾向がある。メディアエージェンシーは④だ。だが、いずれも過去の広告会社業務の延長線上の発想だ。
■計算資源がエージェンシーの事業基盤になる
自律型AIエージェントの情報処理は、すでに人間の限界を超えている。Amazon商品ページ下層50ページ目の個別レビューまでAIエージェント同士が読み込み、処理し、コミュニケーションと実行(購買・決済)まで行う。良質なアウトカムを出すには、相応の計算資源が要る。
日本企業の多くは、トークン投下量よりも成果=「アウトカム評価」を重視したい。コスパを含めて良いものが良いとする基準だ。その評価軸は正しい。だが、アウトカムを生むエンジンが計算資源であり、ここにブレーキ(コスパ)を踏むことこそがAIアウトカムのリスクだと気付きたい。NVIDIAのジェンソン・ファンCEOは、まるで福利厚生のごとく、社員へのトークンの利用を提供している。
どうAI利用エネルギーを仕入れ・確保して、良質な成果物サービスを提供するか。広告会社は、AI時代の計算資源を含めた雇用と事業を支える新たな基盤の設計に入る段階にある。







