執行役員 CAIO(Chief AI Officer)
大手コンサルティングファーム、クリエイティブ系法人向けスタートアップを経て、現職。メディア、Webサービス、通信、エネルギー業界を中心に、DX企画、AI実装、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。 コンサルティング活動の傍ら、社内DX部門にて外部情報発信やAI系スタートアップとの協業に従事。クリエイティブ系法人向けSaaS企業にてCustomer Successを立上げ、契約更新率の大幅改善を達成。新規プロダクトの立ち上げ等も主導。現職においてはDXコンサルティング事業/組織の立ち上げを主導しながら、プロジェクトリード、及び、ブランディング/マーケティング活動に従事。また、博報堂DYグループでAI活用を進めるHCAI Instituteへ所属。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)。
本連載では、AIとの共創がもたらす思考の均質化や、当事者意識の低下といった問題提起を重ねてきた。今回からは、処方箋を語っていきたい。処方箋は大きく二つある。AIを適切につくることと、適切につかうこと。この両者が揃って初めて意味があるが、本稿で扱うのは適切につくる方だ。
第17回 AIが人の力を引き出せるかは、実装の「ラストワンマイル」で決まる
本連載では、AIとの共創がもたらす思考の均質化や、当事者意識の低下といった問題提起を重ねてきた。今回からは、処方箋を語っていきたい。処方箋は大きく二つある。AIを適切につくることと、適切につかうこと。この両者が揃って初めて意味があるが、本稿で扱うのは適切につくる方だ。ただし、業務設計といった上流の思想を論じたいのではない。それらが決定的に重要なのは言うまでもない。考えていきたいのは、いかにしてその思想をAIの具体的な振る舞いのデザインにまで落とし込むかだ。
実装は、成果をどちらにも転ばせる
実装の細部一つで、ユーザーの成果は上にも下にも振れる。それを、二つの軸から示したい。
一つ目の軸は、使い手の「熟練度」だ。専門家と非専門家に広告コピーを書かせ、AIの関わらせ方を比較した実験がある(Chen & Chan, 2024)。AIが下書きを書いて渡す使い方と、人間の書いた案にAIが助言を返す使い方を用意し、出来上がったコピーを実際にSNSに配信して、クリック数で品質を測った。結果は、熟練度によって明確に割れた。助言を返すAIは、非専門家のコピーのクリック数を高め、その内容を専門家が書くものへと近づけた。一方、下書きを渡すAIは、非専門家にも有意な改善をもたらさず、専門家に至っては、AIなしで書くよりも成果を下げてしまった。AIの下書きが思考の錨となり、そこから離れられなくなるアンカリングが原因と分析されている。
二つ目の軸は、その業務で「重視する成果」だ。アウトプットに求めるのは、平均点を確実に上げることか。それとも、他と違うものを生むことか。1,100名超を対象にアイデア創出を課した実験は、AIが人の案を直接書き換えるモデル主導と、AIが提案や問いかけに留まり、本人が案を磨き上げる人間主導を比較した(Maier etal., 2026)。結果、モデル主導はアイデアの品質を高めた。しかしその代償として、アイデア全体の多様性と、本人の自分のアイデアだという感覚が下がった。一方、問いかけで思考を引き出す人間主導の設計は、品質を保ったまま多様性を維持した。
この二軸を掛け合わせるだけでも、つくるべき四つのAIの型が見えてくる。

品質を底上げしたい非専門家には、人の案にAIが修正案まで具体的に返す添削型。
品質を確かめたい専門家には、人が先に作り、AIは事実確認と指摘に留めるWチェック型で、直すかどうかは本人が決める。
独自性が欲しい非専門家には、方向の異なる粗い案を複数渡し、本人に選ばせて育てさせる叩き台型。
独自性が生命線となる専門家には、案ではなく問いや視点を投げる問いかけ型だ。
なお、これはあらゆるAIユースケースに当てはまる話ではない。発想や企画のように、人が思考する業務に限った整理である。そのうえで伝えたいことはこうだ。誰が、何のために使うかによって、AIの適切な振る舞いは微細に異なる。微細だが、これによって、AIは薬にも毒にもなる。
では、そのAIの振る舞いは誰が決めるのか
これまで見てきた違いは、実装上はごくわずかな差でしかない。完成した下書きを渡すのか、助言に留めるのか。人の案を書き換えるのか、問いを返すのか。この分岐を決めているのは、プロンプトのほんの数行であることもある。「まず案を提示せよ」と書くか、「まずユーザーに書かせ、そのうえで助言せよ」と書くか。その程度の記述量で、ユーザーの思考が引き出されるかどうかが変わることもある。つまりAIの振る舞いは、実務上は実装工程で決まるといえる。そしてその数行を書くのは、実装を担う人だ。内製チームであれ、外部パートナーであれ、変わらない。
ここに難しさがある。その数行を正しく書くには、技術力とは別の力が要る。完成後のユーザー体験を、実装の段階で想像しきる力である。しかもその体験は、ユーザー自身も言語化できないことが多い。さらに厄介なのは、正しい設計がときにユーザーに負荷を強いることだ。ユーザーは楽をしたい。だが業務効果を最大化する設計は、あえて考えさせる設計かもしれない。これはもう、実装者が先回りするしかない。とりわけマーケティング業務は、発想や企画といった人の思考そのものが成果を左右する。この難しさは、他領域より重くのしかかるはずだ。
いま多くの組織が、AIユースケースを量産する体制づくりを進めている。そこで論点になるのは、たいてい技術的な側面だ。それが必要不可欠なことは間違いない。ただ、AIの振る舞いを決めているのが細かなAIに対する設定である以上、それを定める数行、あるいは少しの設定をおこなう人やチームに、ユーザーの動機や思考様式を読み、言語化されない体験を先回りして設計する力が備わっていなければ、思想は効果に変わらない。
<出典>
Maier, S., Schneider, M., & Feuerriegel, S. (2026). Partnering with Generative AI: Experimental Evaluation of Model-Led and Human-Led Interaction in Human-AI Co-Creation. CHI '26.arXiv:2510.23324









