組織におけるAI活用術

AIと描く未来、働き方と組織の固定概念を変革し共に成長する物語。その先駆者となるマーケティング領域での実践的アプローチを、具体的な活用事例から探る。

組織におけるAI活用術

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AIと描く未来、働き方と組織の固定概念を変革し共に成長する物語。その先駆者となるマーケティング領域での実践的アプローチを、具体的な活用事例から探る。

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中原 柊

中原 柊

Magicx consulting
Magicx consulting

執行役員 CAIO(Chief AI Officer)


大手コンサルティングファーム、クリエイティブ系法人向けスタートアップを経て、現職。メディア、Webサービス、通信、エネルギー業界を中心に、DX企画、AI実装、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。 コンサルティング活動の傍ら、社内DX部門にて外部情報発信やAI系スタートアップとの協業に従事。クリエイティブ系法人向けSaaS企業にてCustomer Successを立上げ、契約更新率の大幅改善を達成。新規プロダクトの立ち上げ等も主導。現職においてはDXコンサルティング事業/組織の立ち上げを主導しながら、プロジェクトリード、及び、ブランディング/マーケティング活動に従事。また、博報堂DYグループでAI活用を進めるHCAI Instituteへ所属。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)。

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前回、AIによって人の思考が同質化し、アイデアへの当事者意識が薄れる問題への処方箋は二つあると述べた。AIを適切につくることと、人がAIを適切につかうことである。今回は後者、つまり「つかう」側を掘り下げたい。

第18回 組織がAIによって同質化してしまうかどうかは、「何を評価するか」で変わる


前回、AIによって人の思考が同質化し、アイデアへの当事者意識が薄れる問題への処方箋は二つあると述べた。AIを適切につくることと、人がAIを適切につかうことである。今回は後者、つまり「つかう」側を掘り下げたい。

AIは正解ではなく、あくまで思考のパートナーであるという認識はもはや常識となりつつある。だが、心構えを唱えるだけで人の行動が変わるのなら、どの組織もとっくに変わっているはずだ。だから、問いはこうなる。AIの良い使い方を、組織はどうすれば促せるのか。研修や説教のほかに、打てる手はあるのだろうか。

■仕事を頼むときの一言を変えた実験

この問いに対する示唆に富む実験がある。MITのJoとRaghavanによる研究だ。

参加者200名に課されたのは、短い物語を書く課題だ。5分でアイデアを練り、20分で250〜350語の短編を仕上げる。この200名を、二つの軸で50名ずつ4つのグループに分ける。

一つ目の軸は、AIを使って書くかどうか。使うグループにはAIを内蔵した文章エディタが与えられ、最低1回は使うことが求められた。使わないグループは自力で書く。

二つ目の軸が、本稿の要点である。事前に伝える課題のゴールを何と伝えるかだ。一方のグループには「これは短編小説のコンペです。応募は何千とあります。できるだけ目立ってください」と伝え、報酬は独自性で上位4分の1に入った人に支払われる。もう一方のグループには「これはライティング入門クラスの最初の課題です。質の高い作品を提出して、成績Aを取ってください」と伝え、報酬は成績に応じて支払われる。

測定したのは、同じグループの文章が互いにどれだけ似ているか。つまり、同質化の度合いである。

図1 実験の4グループ:「AI利用の有無」×「伝えたゴール」

■同じAIを使っても、伝えたゴールで同質化の度合いが変わった

まず、AIが最初に出してきた下書きは、やはり似たり寄ったりだった。たとえば、いくつもの下書きが「目が覚めると、そこは……」で始まる。

ただし、人が手を入れる過程で文章は多様化していく。ここでどれだけ多様化するかを左右していたのが、事前に伝えたゴールだった。

「目立ってください」と言われたグループの完成稿は、「成績Aを取ってください」と言われたグループより、集団として明らかに多様だったのである。同じAIを使っているのに、だ。

図2 伝えたゴールでどれだけ文章の均質度合いが変わるか

数字も見ておこう。以下の数値は文章どうしの似ている度合いで、大きいほど均質だということになる。AIありの二つのグループが、同じゴールを伝えたAIなしのグループと比べてそれぞれどれだけ均質だったか、その差を示した数値だ。

AIが出した下書きの段階では、品質を評価基準だと伝えた側が0.191、独自性を評価基準だと伝えた側が0.212とほとんど変わらない。ところが人が手を入れた完成稿では、品質側が0.062、独自性側が0.043となる。数値が下がるのは両グループとも同じだが、下がり方は異なる。完成稿どうしで比べると、独自性をゴールに伝えた側は品質側よりも、同質化度合いが3割ほど小さくなったのである。ゴールや評価基準を伝える一言は、AIの出力を人がどう扱うかを変えたのである。

興味深いのは、独自性を求められたグループがAIの利用を避けたわけではない点だ。AIの出力をそのまま採用する割合が低く、発想の相談や部分的な手直しへと用途を絞っていた。むしろ、理想とされる思考のパートナーとしての使い方に、自然と近づいていた。

なお、AIなしの二つのグループでは、どちらのゴールを伝えても差は出なかった。言葉が効いたのは、AIが介在する側だけだったのである。

■わたしたちに対する示唆

要は、評価基準である。何を評価すると伝えるかで、AIの使われ方そのものが変わる。

だとすれば、これまで以上に独自性を評価対象としてはっきり示すべきかもしれない。マーケティング組織の業務には、独自性を失ってはいけないものが数多くある。そうした業務では、品質と並べて独自性そのものを評価すると明言したい。

ただし、評価基準といっても人事制度のような大きな話ではない。上述した実験でも、人の行動を変えたのは事前に伝えられたたった一言だった。だからこそ、明日から変えられることがいくつもある。

たとえば、ブリーフやオリエンの資料だ。「良い企画をお願いします」と書けば、求めているのは完成度だと伝わる。「他社が絶対に出さない案を見たい」と書けば、独自性だと伝わる。実験で効いたのは、その程度の差である。

あるいは、企画会議の最初の一言はどうだろう。「これ、本当にいける?」と聞くのか、「これ、何がこれまでと違うの?」と聞くのか。

組織風土も大いに関係するだろう。誰のどの案が褒められ、何が面白いと言われたか。日常のなかで何がよしとされているかは、メンバーの動機づけに大きくかかわる。

AIがあっても同質化しない組織をつくるには、ツールの導入や研修だけでは足りないということだ。日々の会話にも、組織マネジメントにも、同質化を防ぐ仕掛けを意図的に組み込んでいく。地味だが、そういう設計こそ、これからのマーケティング組織には求められるのではないだろうか。私たちは同僚や部下、パートナー企業にどんな一言で仕事を頼めば良いだろうか。

<出典>

Jo, N. & Raghavan, M.(2026). Incentives shape how humans co-create with generative AI.arXiv:2604.03529.

第18回 組織がAIによって同質化してしまうかどうかは、「何を評価するか」で変わる


前回、AIによって人の思考が同質化し、アイデアへの当事者意識が薄れる問題への処方箋は二つあると述べた。AIを適切につくることと、人がAIを適切につかうことである。今回は後者、つまり「つかう」側を掘り下げたい。

AIは正解ではなく、あくまで思考のパートナーであるという認識はもはや常識となりつつある。だが、心構えを唱えるだけで人の行動が変わるのなら、どの組織もとっくに変わっているはずだ。だから、問いはこうなる。AIの良い使い方を、組織はどうすれば促せるのか。研修や説教のほかに、打てる手はあるのだろうか。

■仕事を頼むときの一言を変えた実験

この問いに対する示唆に富む実験がある。MITのJoとRaghavanによる研究だ。

参加者200名に課されたのは、短い物語を書く課題だ。5分でアイデアを練り、20分で250〜350語の短編を仕上げる。この200名を、二つの軸で50名ずつ4つのグループに分ける。

一つ目の軸は、AIを使って書くかどうか。使うグループにはAIを内蔵した文章エディタが与えられ、最低1回は使うことが求められた。使わないグループは自力で書く。

二つ目の軸が、本稿の要点である。事前に伝える課題のゴールを何と伝えるかだ。一方のグループには「これは短編小説のコンペです。応募は何千とあります。できるだけ目立ってください」と伝え、報酬は独自性で上位4分の1に入った人に支払われる。もう一方のグループには「これはライティング入門クラスの最初の課題です。質の高い作品を提出して、成績Aを取ってください」と伝え、報酬は成績に応じて支払われる。

測定したのは、同じグループの文章が互いにどれだけ似ているか。つまり、同質化の度合いである。

図1 実験の4グループ:「AI利用の有無」×「伝えたゴール」

■同じAIを使っても、伝えたゴールで同質化の度合いが変わった

まず、AIが最初に出してきた下書きは、やはり似たり寄ったりだった。たとえば、いくつもの下書きが「目が覚めると、そこは……」で始まる。

ただし、人が手を入れる過程で文章は多様化していく。ここでどれだけ多様化するかを左右していたのが、事前に伝えたゴールだった。

「目立ってください」と言われたグループの完成稿は、「成績Aを取ってください」と言われたグループより、集団として明らかに多様だったのである。同じAIを使っているのに、だ。

図2 伝えたゴールでどれだけ文章の均質度合いが変わるか

数字も見ておこう。以下の数値は文章どうしの似ている度合いで、大きいほど均質だということになる。AIありの二つのグループが、同じゴールを伝えたAIなしのグループと比べてそれぞれどれだけ均質だったか、その差を示した数値だ。

AIが出した下書きの段階では、品質を評価基準だと伝えた側が0.191、独自性を評価基準だと伝えた側が0.212とほとんど変わらない。ところが人が手を入れた完成稿では、品質側が0.062、独自性側が0.043となる。数値が下がるのは両グループとも同じだが、下がり方は異なる。完成稿どうしで比べると、独自性をゴールに伝えた側は品質側よりも、同質化度合いが3割ほど小さくなったのである。ゴールや評価基準を伝える一言は、AIの出力を人がどう扱うかを変えたのである。

興味深いのは、独自性を求められたグループがAIの利用を避けたわけではない点だ。AIの出力をそのまま採用する割合が低く、発想の相談や部分的な手直しへと用途を絞っていた。むしろ、理想とされる思考のパートナーとしての使い方に、自然と近づいていた。

なお、AIなしの二つのグループでは、どちらのゴールを伝えても差は出なかった。言葉が効いたのは、AIが介在する側だけだったのである。

■わたしたちに対する示唆

要は、評価基準である。何を評価すると伝えるかで、AIの使われ方そのものが変わる。

だとすれば、これまで以上に独自性を評価対象としてはっきり示すべきかもしれない。マーケティング組織の業務には、独自性を失ってはいけないものが数多くある。そうした業務では、品質と並べて独自性そのものを評価すると明言したい。

ただし、評価基準といっても人事制度のような大きな話ではない。上述した実験でも、人の行動を変えたのは事前に伝えられたたった一言だった。だからこそ、明日から変えられることがいくつもある。

たとえば、ブリーフやオリエンの資料だ。「良い企画をお願いします」と書けば、求めているのは完成度だと伝わる。「他社が絶対に出さない案を見たい」と書けば、独自性だと伝わる。実験で効いたのは、その程度の差である。

あるいは、企画会議の最初の一言はどうだろう。「これ、本当にいける?」と聞くのか、「これ、何がこれまでと違うの?」と聞くのか。

組織風土も大いに関係するだろう。誰のどの案が褒められ、何が面白いと言われたか。日常のなかで何がよしとされているかは、メンバーの動機づけに大きくかかわる。

AIがあっても同質化しない組織をつくるには、ツールの導入や研修だけでは足りないということだ。日々の会話にも、組織マネジメントにも、同質化を防ぐ仕掛けを意図的に組み込んでいく。地味だが、そういう設計こそ、これからのマーケティング組織には求められるのではないだろうか。私たちは同僚や部下、パートナー企業にどんな一言で仕事を頼めば良いだろうか。

<出典>

Jo, N. & Raghavan, M.(2026). Incentives shape how humans co-create with generative AI.arXiv:2604.03529.

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