株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
海外現地法人のマネジメント歴18年(中国・広州/香港、北米・ロサンゼルス/ニューヨーク)。アサツーディ・ケイ現地法人ADK America (WPP Group)のCFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。ニューヨークの最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。
共著に『広告ビジネス次の10年』『2030年の広告ビジネス』(翔泳社)がある。
「生成AIが普及すれば、検索広告は減る」――2024年頃から、そうした見方が市場を支配していた。AI Overviews が検索結果の上位を占有し、ユーザーは企業サイトやデジタル広告をクリックしなくなる。いわゆる「ゼロクリック検索」が進み、広告露出の課金は痩せていく。そのはずだった。
GEO/LLMO・AIエージェントへ流れる「別腹の財布」 ―― 広告費が縮まず膨らんだ理由
■プラットフォーマー5社で広告収益、3年で31兆円超の純増の衝撃
「生成AIが普及すれば、検索広告は減る」――2024年頃から、そうした見方が市場を支配していた。AI Overviews が検索結果の上位を占有し、ユーザーは企業サイトやデジタル広告をクリックしなくなる。いわゆる「ゼロクリック検索」が進み、広告露出の課金は痩せていく。そのはずだった。
ところが、いま起きているのは“ま逆”の現象である。Alphabet、Meta、Amazon、Microsoft、TikTok の5社が直近の3年間で積み上げた「広告」関連収益は、合算で約60.7兆円(4,046億ドル)から、約92.3兆円(6,152億ドル)へ、約31.6兆円(2,106億ドル)もの激増が起きている(図1)。上記の成長は、AWSやGoogleCloudなどのクラウド事業やEC事業を除いた「広告収益」に絞った金額だけで、これだけの巨額に達している。
電通の「日本の広告費」によれば、日本の総広告費は2025年時点で約8.1兆円だった。つまり、たった5社が3年で積み上げた広告純増分だけで、日本の広告産業まるごと4年分の規模が新たに生まれた。
これは「米国の広告が好調」という対岸の出来事ではない。広告予算という「財布そのものの定義」が変わりつつあると読める。新しい「AIアテンションエコノミー」だ。
■広告費が「別腹の財布」で膨らむ
図1のとおり、各社がプラス30%〜100%で成長する一方で、Google Networkセグメント(AdSenseなど旧来型のサードパーティ広告誘導課金)は3年でマイナス9.1%縮小となっている。ゼロクリック化の影響を受けているのは、まさにこの旧来広告の部分だ。つまり、同一プレイヤーの中で、旧来の広告誘導モデルは痩せ、AIにより近い広告費が太っている。広告市場全体が縮んでいるのではなく、重心がシフトしている。
その上で、上振れ分はどこから流れ込んでいるのか。ひとことで言えば「別腹の財布」である。日本では、まだこれらを全部まとめて「AI最適化を急げ」として議論している段階にあるが、米国ではGEO/LLMO・AIエージェントなど別々の予算ラインで運用する段階に入った。
■仕分けが難しい「新しいタイプの広告費」が出現
新しい広告予算の最初の出口は、「AIに自社を上位で覚えさせる」「AIの回答面に出させる」ためのコストである。検索結果で上位に出ることではなく、AIエージェントの選択肢に入ることが新たな目標指標になる。
SEOの時代は「人間にとって読みやすいWebページ」を作る作業だった。だがエージェント時代は、MCPサーバーが「(人間をとばして)AIに直接データを流し込む」役割を持つ。MCP対応していない企業の商品は、AIエージェントから見えない。検索エンジンに登録されていない店がGoogleに出てこなかったのと同じ構造である。
電通Gなどのグローバル広告企業(Omnicom/IPG、Publicis、WPP 等)が自社開発するAIプラットフォームを導入する広告主における「利用費」は広告費として計上されるものか、コンサルフィーなのか、IT・AI利用費(トークン)なのか。この認知が変われば、投資先の流れも変わる。ここに、「AIアテンションエコノミー」の新しい景色がある。








