ストラテジスト
東京、ロンドン、パリ。3つの都市で、マルチナショナル・クリエイティブエージェンシーのストラテジックプランナーとして20年ほど勤務。
異なる文化をつなぐコンサルタント。
このフレーズは、フランス語のスラングである。本来は痰のような粘液質な物を意味するフレムという言葉を、最近では気分または状態を表す言葉としてフランスの若者はよく使っている。日本語で言う「面倒くさい」「ダルい」に近い。
J’ai la flemme (ジェ・ラ・フレム):「やる気がない」が蔓延する時代
このフレーズは、フランス語のスラングである。本来は痰のような粘液質な物を意味するフレムという言葉を、最近では気分または状態を表す言葉としてフランスの若者はよく使っている。日本語で言う「面倒くさい」「ダルい」に近い。思春期の若者で流行り出したこのフレーズ(「フレム」だけに省略されてしまうことも多い)は、2015年あたりから段々と一般的に使われ始め、今や伝染病とまで言われるほどに「フレム」が生活に影響を及ぼしている。

座るのもフレム(ダルイ)な若者
週末に一日中家の中でゴロゴロしているティーンエイジャーの子供を家から連れ出そうとする親の大部分は、フレムを理由に断られると言う虚しい経験をしている。ティーンの場合、何事も面倒くさいと感じ、あまり動きたがらないのは思春期のホルモンによるところもあるが、家篭りを好むのは今の若者世代の特徴でもあるのではないかと言われている。ルモンド紙のコラムでは、自己防衛、抵抗・反抗、ライフスタイルの3つの視点を上げている。気候変動、ウクライナ戦争、コロナ・パンデミック、政治不安、就職難、など、今の若者世代が正面から受け止めなければならない様々な危機に対する自己防衛反応としての「安心できる家(ベッド)にこもっていたい」、シャットアウトまたはシャットダウンしたいと言う欲求の表れではないかという視点。または、パフォーマンス主義、スピード重視の世の中のシステムに対するレジスタンスとして怠け者化し、あえて流れを乱したいのではないかと言う視点。そして、2020年のパンデミックによるロックダウンを通して、家にこもる快感(出勤しなくていい、楽な格好していていい、無理に人に会わなくていい)を経験した世代が、もうパンデミック前のような生活には戻りたくない、もう少しスローでチル(英語のChill)なライフスタイルを求めているのではないかと分析している。
怠けることは、いけないことか?
今のフランスは、働く意欲がない、努力する意欲もない、どんどん怠惰になっていく、と嘆く経済学者はA Iを含む新しいテクノロジーの影響を指摘している。ChatGPTがすぐに何でも答えを出してくれるから、知識を伸ばす必要もないと感じ、夕食に出かける代わりにオンライン・デリバリーを頼み、会議はズームで済ませ、本を読むよりストリーミングビデオを観るといったオプションが増えたせいだと。ある世論調査によると、フランス人の約30%がパンデミック前に比べて仕事に対する意欲が減ったと答えている。25−34歳においては、その数字が40%に上がる。フレム現象は、実は2015年ごろから見られ始めたとこの世論調査を設計した人は分析している。フランスにおけるテロ事件、続く政策に反対する抗議運動、パンデミック、経済の低迷、そして常に背景にある気候変動の影響など、多くのストレス要因がこの10年続いていることを考えると、「怠け」や「やる気がない」ことを理由に一休みをするのは、精神のバランスを取るためにかえって必要なのではないかと結論づけている。
「やる気がない」と堂々と言えるのは、もしかしたら悪いことではないのかもしれない。
フレム万歳!
若者に人気のハイヤータクシーサービスHeetch(ヒーチ)は、パリオリンピック開催中に「フレム」の公式スポンサーと銘打って広告展開を行った。オリンピックのパロディーになっており、コピーでは、誰の中にもフレムはあることを賛美、応援している。
<参照サイト>