Future Creativeリード室
エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
マーケティングコンサルタント
戦略10年、CR15年のハイブリッド人材。 広告で鍛えたクリエイティビティを道具に、 経営の現場へ。問いを立て、場をつくり、物語を描く。そんなアプローチで、D2Cサービス、美術館、エンターテイメント——CMにとどまらず、さまざまなコンセプトワークにも従事。事業開発、組織づくりや人材育成、IRまで、経営陣の隣で考える仕事が、近年のライフワーク。受賞歴 ACC・ADCグランプリ/ギャラクシー賞/カンヌ/アドフェスト/ワンショウ/クリオ/モバイル広告大賞/グッドデザイン賞/キッズデザイン賞
広告の仕事をしていると、正しいことを正しく積み上げても、人も組織も動かない瞬間に何度も出会う。誰かが悪いわけではなく、むしろ皆が真面目に、合理的に進めようとするほど、現場の感度や主体性が細ってしまうことがある。
広告をつくるだけでは足りない— 問いと場と物語で「われわれ」を立ち上げる
広告の仕事をしていると、正しいことを正しく積み上げても、人も組織も動かない瞬間に何度も出会う。誰かが悪いわけではなく、むしろ皆が真面目に、合理的に進めようとするほど、現場の感度や主体性が細ってしまうことがある。最近、私が考え続けているのは、そうした停滞をどうほどくか、ということだ。
宇田川元一さんの『企業変革のジレンマ』が鋭いのは、こうした停滞を個人の能力不足の問題にしないところだ。仕事を細かく分け、効率よく回そうとするほど、組織は分断される。誰も怠けていないのに、全体としては変化に対応しにくくなる。問題は個人ではなく、組織のあり方そのものにある。合理性を積み上げた結果、いつの間にか、その構造自体が働く人の発想を縛ってしまう。私が向き合いたいのは、この組織に最適化された「思考の檻」からどう抜け出すか、ということだ。
【問いは驚きから始まる】
そんな檻から抜ける手がかりとして惹かれたのが、『問いの編集力』だ。著者の安藤さんの投げかけから私が受け取ったのは、能動的な問いこそが、企業人を檻から外へ出す手掛かりである、ということ。そして、能動的な問いの前には、驚きや違和感、ざわつきのような感情があるということだ。何かに心が留まる。見過ごせない。なぜか引っかかる。その小さな揺れが、あとから言葉になって問いになる。だから大事なのは、うまく課題を見つける力だけではない。その手前で、世界に驚けることだと思う。私たちは、正しく考えることは訓練されてきた。でも、驚くことや、違和感に気づくことからは少しずつ遠ざかっているのではないか。だからこそ必要なのは、問いの立て方の技術より先に、自分の感度をもう一度上げることなのだと感じている。
【わたしの熱を、あなたの切実さへつなげる物語】
そして『野性の経営』で私にとって大きかったのは、強い思いや問いを持つことだけでなく、その思いを二人称に開き、組織知へ育てていくことの大切さだった。自分の中に生きた問いがあることは、たしかに出発点になる。けれど、それはまだ自分だけの火花でしかない。人や組織を本当に動かすには、「わたしはこうしたい」が、「あなたにとってそれは何を意味するのか」にまで開かれなければならない。ここで大切なのは、相手を「周囲の人」として見るのではなく、目の前の「あなた」として捉えなおすことだと思う。自分の思いを、あなたにとっての切実さへつなぎ直していく。そのために必要なのが、ただの説明ではなく、相手が入ってこられる余白のある「物語」なのだと思う。
【同感より共感】
私たちが「共感」という言葉を使うとき、実際には、共感よりも同感を指していることが少なくないのかもしれない。同感(sympathy)は、気持ちや意見の近さに重心があり、思いを重ねることだ。けれど共感(empathy)は、違いがあっても相手の現実に触れ、その人の見ている景色を受け止めようとすることだと思う。大事なのは、違いをなくすことではない。違いを持ったまま、本気でぶつかれることだ。予定調和ではなく、(野中さんの言葉を借りれば)知的闘争が要る。個人の火花を、巻き込む炎に変えるには、それにふさわしい場がいる。それは、正解を配るための会議室ではない。ただ自分の考えを主張する場でもない。本気でぶつかり、相手の現実に触れ、自分の思いも言葉も「変わっていく場」である。
私たちがいま取り組んでいるクリエイティブセッションは、まさにその実践だと感じている。結論を急がず、問いを持ち寄り、意見をぶつけ、ズレを引き受けながら、少しずつ「わたし」と「あなた」が「われわれ」になっていく。野生の経営でも取り扱われているHondaのワイガヤに私が惹かれるのも、単に自由に議論できる場だからではない。寝泊まりするほど徹底して本音をぶつけ合い、正解を探すのではなく、新しい価値の輪郭が立ち上がるまで対話を続ける。その過程の中で、集まった人たちが単なる参加者ではなく、当事者になっていく。そこに本質があるのだと思う。
【私がみなさんと創りたい未来】
いま私がクリエイティブという道具を使って叶えたいのは、広告表現をつくることだけではない。問いと場と物語を通じて、組織の中に「われわれ」が生まれる瞬間を増やしていきたい。ここでいう「われわれ」は、最初からあるものではない。違う考えや感覚を持った人たちが、共感と知的闘争を通じて、自分たちのものとして育てていく関係のことだ。だから、広告をつくるだけでは足りない。問いを生み、場をつくり、物語を立ち上げ、「われわれ」を増やしていくことまでを、私はこれからのクリエイティブと呼びたい。私がみなさんと創りたいのは、企業のあちこちで、そんな「われわれ」が自然に生まれ、現場から変化が育っていく未来の風景だ。
【紹介書籍】
・宇田川元一『企業変革のジレンマ―「構造的無能化」はなぜ起きるのか』日経BP 日本経済新聞出版、2024年6月25日、292頁、ISBN 978-4-296-11592-1
・安藤昭子『問いの編集力―思考の「はじまり」を探究する』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2024年9月20日、264頁、ISBN 978-4-7993-3093-7
・野中郁次郎・川田英樹・川田弓子『野性の経営―極限のリーダーシップが未来を変える』KADOKAWA、2022年4月1日、374頁、ISBN 978-4-04-604981-0









