第3回 スマホを活用した高齢者の“困りごと支援ビジネス”が拡がる
超高齢社会とは、人口に占める高齢者の割合が高い社会のことを指す。WHOの定義では、65歳以上の人口比率が21%を超えた社会を超高齢社会と呼ぶ。日本の高齢化率は29.1%(2022年)であり、超高齢社会の定義をはるかに超えた超超高齢社会となっている。
高齢者が多数生活する社会において増加するのは、高齢者が日常生活を過ごす上で直面するさまざまな困難を解消したいというニーズである。
人は老化に伴って、否応なく日常生活動作(ADL=Activities of Daily Living)が低下する。そして、それまでできていたことが、少しずつ困難になる事態に直面する。移動や食事、排泄、入浴などの基本的な日常動作が困難となれば、介護が必要となるが、要支援・要介護認定高齢者は、65歳以上高齢者の2割弱であり、高齢者の多くは数多くの“ちょっとした困りごと”を抱えつつ生活を続けているのである。
“ちょっとした困りごと”は、例えば、目が見えづらくなり、身体も満足に動かせないなどの理由で掃除ができず、家の中がホコリだらけになる。電球が切れてしまったけれど、交換できないので、部屋の一部は暗いままに生活している。歩行が困難となり、遠くのスーパーまで買い物に行けないので、近くのコンビニだけでやりくりしている、といったたぐいの困りごとだ。決定的に生活困難になるわけではないので、とりあえずは生活できるものの、“生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)”は確実に低下する。
こうした困りごとを抱えた高齢者に対する援助は、かつては同居・近居の息子・娘や家族や近所の知り合いたちが担っていた。しかし、少子化が進み、血縁や地縁の支援が期待できない今、“ちょっとした困りごと”の解消は、以前よりも困難になってきている。
日常生活に困難を抱えた高齢者の支援を、行政は、介護保険制度上の「介護予防・日常生活支援総合事業」として、市町村が中心となり、地域住民の参画による地域の支え合いの体制として再構築しようとしている。しかし、実際のところ住民参画の仕組み構築はなかなか進まない。地域における人間関係が既に希薄となってしまった現在、地域住民による共助の再構築は、なかなか簡単なことではない。
都市化が進んだ現在においては、地域住民による善意を前提とした共助の仕組みよりも、よりビジネスライクにかつ手軽な形で利用できる、高齢者の困りごと支援の仕組み構築が求められている。
こうした視点で、今後、期待されるのがスマートフォンなどのデジタル・デバイスを活用した高齢者支援システムの構築である。ハウスクリーニングや家事代行、不用品回収、家具組み立てなど、日常の暮らしのサービスをオンラインで提供するサービスは、既に多くの人が利用している。今後こうしたサービスの高齢者の困りごと対応バージョンが生まれてくるだろう。
近年、高齢者のスマートフォン保有率は上昇し、60代で約9割、70代でも8割近くがスマートフォンを保有している。(2023年モバイル社会研究所調べ)
従来、高齢者とデジタル機器は縁遠いと思われていたが、ここまで保有率が高まれば、スマホを自在に活用できるシニアも当たり前に存在するだろう。
スマートフォン・アプリをベースとする高齢者の困りごと支援サービスは、すでに米国では、ニューヨーク、サンフランシスコなど都市部を中心にベンチャー・ビジネスとして複数生まれている。いずれ、日本においても同様のサービスが生まれてくるに違いない。高齢化率が世界で最も高い日本だからこそ、生まれてくるべきサービスであると言えよう。