事業会社にて自社アプリのマーケティング業務全般に従事した後、2022年に(株)オプト入社。競争が激しく、継続的な広告成果の改善が求められる人材・EC領域を中心に、大規模アカウントの広告戦略策定から運用までを担当。現在はインハウス事業部マネージャーとしてWeb広告内製化支援サービス「for Ad inhouse」の責任者を務める。
デジタル広告を取り巻く環境が変わっている。AIの台頭により、入稿作業、入札の最適化、クリエイティブのバリエーション生成といった作業の効率化が急速に進んだ。こうした変化を背景に、Web広告のインハウス化への関心も高まっている。
AI時代のインハウス化 自動化が進むほど、問われる"自社の判断力"
1.広告業界のいま
デジタル広告を取り巻く環境が変わっている。
AIの台頭により、入稿作業、入札の最適化、クリエイティブのバリエーション生成といった作業の効率化が急速に進んだ。こうした変化を背景に、Web広告のインハウス化への関心も高まっている。オプトの独自調査(※1)では、一部インハウスを含めると約86%の企業が何らかの形でインハウスに着手している。もはや一部の先進企業の話ではなく、多くの事業会社が無視できない経営アジェンダになっている。
注目したいのは、その目的だ。最も多いのは「施策のスピード向上と柔軟性の改善」(38.6%)、次いで「ナレッジやデータを社内に蓄積するため」(27.1%)。コスト削減(20.1%)を上回り、多くの企業がコストよりも「自社の力」を高めることに目を向けている。
2.「AIがあればインハウスできる」という誤解
「AIで広告運用が自動化されるから、インハウスもできる」という主張を目にすることがある。だが、支援現場の立場からすると、それだけでは不十分だと考えている。
AIはオペレーション業務の多くを効率化できる。その傾向は今後さらに広がっていくだろう。
ただ、インハウス化の成否を分けるのはその先にある。事業の文脈を理解した上での戦略判断、数字の裏にある意図を読む力、社内のステークホルダーを動かす調整力。こうした業務やスキルは、AIで代替できる領域ではない。
3.AIが変えたこと、変えていないこと
AIがもたらしたのは、作業の効率化だ。この領域では確かに機能し、かかっていた時間とコストは今後も下がり続けるだろう。
ただ、それは「何をやるか」という意思決定の部分にまで及ばない。
デジタルマーケティングの質は、顧客をどれだけ深く理解し、その理解をどれだけ速く施策へ反映できるかにかかっている。顧客に最も近い現場が、データの分析と運用を自らの手で行えるようになると、意思決定の質と速度が同時に上がる可能性がある。顧客理解から実行、検証までが一つの手の中で循環し始める。AIにできるのはその循環を後押しすることであり、判断そのものを代替することではない。
4.「広告運用をインハウスする」ということの本質
インハウス化の目的は何か。コスト削減も一つの要素だが、本質は事業成長のために自社で判断できる基盤を作る ことにあると考える。
支援現場でその変化を実感した事例がある。ある教育企業では、インハウス化にあたって経験者を数名採用し、未経験者をその経験者とペアで育成するチームを設計した。評価制度も同時に刷新し、インハウスを「やらされる仕事」ではなく組織として推進できる体制を整えた結果、半年で実施した施策数は5倍に拡大、広告KPIである新規獲得数も10〜20pt改善を達成。「運用を移管する」のではなく「判断できる組織をつくる」ことを起点に設計したことが、成果につながった。
先の調査では、もう一つ興味深い事実がある。内製化を進めた企業ほど、広告会社との取引を「増やしたい」と答える割合が高いのだ(54%超)。自社で手を動かすことで、何を内に持ち、何を外部と組むべきかが初めて明確になる。インハウス化とは、内製と外注の最適な配分を企業自身が設計できるようになるプロセスでもある。
インハウス化も、AIも、手段に過ぎない。大切なのは「何のために判断力を自社に取り戻すのか」という問いに立ち返ることだ。企業が顧客に最も近い場所で、速く、深く判断できるようになること。それがデジタルマーケティングを次の段階へと進め、事業の成果に直結していく。









