第11回 「あってはならない」の呪縛からの解放
かつて、家電メーカーが自社製品の欠陥が発覚した段階で、お詫びと回収のCMを大々的にうって、かえってその会社のイメージがアップしたということがありました。いわゆるお詫びCMの元祖と言われるCMです。
コンプライアンス違反を起こさないように、いくら研修をしても、本を読んでも、一定の割合でどんな企業にも、程度の差はありますが、コンプライアンス違反等の不祥事はおきます。リスク管理とはリスクをゼロにすることではなく、リスクをできる限り小さくすること、すなわち、コンプライアンス違反が発覚したときに、どのような対応をするかというところこそが最も大事だと思います。
これは、違う表現をすると、【「あってはならない」の呪縛からの解放】ということもできると思います。コンプライアンス違反なんて絶対あってはならないと思っていると、あってはならない→起こってしまった→まずい→隠そうという発想になってしまいがちです。しかし、SNSがこれだけ浸透している現代社会において、口止めをして内部で処理をするということで、隠し通すことはできるでしょうか。
「隠す」という決断をすると、「隠す」ことで意思決定は完了なので、それ以上の対策を立てません。とにかく口外するな、それだけです。この場合、後になって、どこからか不祥事がばれて、取材を受ける、ネットニュースになる等ということが起きると、どうなるでしょうか。もともと「隠す。以上終了」という意思決定ですから、外部に漏れたときのシュミレーションもしておらず、外部主導で次々と隠していた事実が明るみになり、記者会見を開くにしても、後手後手の印象はぬぐえません。自分で不祥事の事後対応をコントロールできなくなってしまうのです。
一方、コンプライアンス違反は起こりうるもの、というスタンスの会社では、万が一コンプライアンス違反が起こったときに、隠そうという発想は出てきません。いつ、どういう情報をどのような形で公表することが、会社のレピュテーションを必要以上に下げずに済むだろうかという観点で事態の把握にあたりますから、不祥事の事後対応を自らのぺースでコントロールすることができ、当然社会に与える印象も悪いものとはなりにくいです。冒頭の家電メーカーが良い例です。
そして会社が適切な開示を適切な時期にするためには、現場から正しい情報が、会社にとって不利な情報も含めて、迅速に上に上がってくる組織形態が必要です。不祥事が起こったときに、自分の保身を考えて、重要な事実を報告しない等という人ばかりでは困ります。会社一丸となってこの困難を乗り越えて行くためには、上の立場の人がトカゲのしっぽ切りのように現場に責任を押し付けるということでは困りますし、現場の皆さんも、自分たちが把握している全ての情報を報告しなければなりません。そのためには普段からコミュニケーションを密に取りながら、風通しの良い職場作りを心掛けることがとても大切です。