第5回 社内の「これはおかしい!」を正すために-公益通報者保護法とは-
先日、大手中古車代理店が車両保険金の水増し請求を長年にわたって行っていたという報道がなされました。きっかけは「上長の指示で過剰な自動車の修理をし、その費用を保険会社に請求している」という旨の従業員から損保の業界団体に対する内部告発だったようです。
日本で報道される企業の不祥事のうち、相当数はこのような内部告発(「企業の外部」に告発)や内部通報(「企業の内部」に通報)がきっかけとなっています。しかしその一方で、勇気を出して、会社を良くしようという一心で通報をした従業員が、通報をもみ消され、部署移動、転勤等のいやがらせを受けるというケースもたびたび報告されていました。
内部からの声による自浄作用で企業が良い方向に向かうことは望ましいことのはずなのに、それにより個人が大きな不利益を受ける可能性があるとすると、怖くて誰も行動ができませんよね。そうやって長年見過ごされ続けてきた不正は、当該企業をむしばむだけではなく、国民への被害拡大にもつながりかねません。数年前、ジェネリック薬品を製造している複数の製薬会社が、国の承認書と異なる方法で薬を製造していたことが明らかになり、業務停止処分を受けたことで、ジェネリック医薬品不足問題が起きたということがありました。
そこで、公益通報者保護法は、公益通報の重要性に鑑み、文字通り通報者を保護するために、公益のために通報を行ったことを理由として、通報者に対し解雇、降格等の不利益な取り扱うことを禁止しています。
もっとも、あらゆる通報が同法の保護の対象となるわけではありません。同法で保護される通報対象事実は、対象となる法律(500本(令和5年7月13日現在))(及びこれに基づく命令)に違反する犯罪行為若しくは過料対象行為、最終的に刑罰もしくは過料につながる行為です。例えば、職場でのパワハラやセクハラは、いずれも犯罪行為又は過料につながる法令違反行為ではないことから、これらについての通報は公益通報には該当しません。但し、ハラスメントが暴行や脅迫、強制わいせつ等の犯罪行為にあたる場合には、公益通報に該当します。
また、不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的等で通報した場合には、公益通報にはなりません。通報先は①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他の事業者外部(マスコミ等)のいずれかですが、通報先ごとに保護を受けるための要件が異なりますので、ご注意ください。