連載第2回 カンヌライオンズの今、注目の部門とは? ①
広告業界のアワードの中で、最も有名で、最も影響力の強いものと言えば、真っ先にカンヌライオンズ(旧カンヌ国際広告祭)が挙げられる。
今年2024年で71回目を迎えるカンヌライオンズは、今や30の部門を持っていて、部門をLionと呼び、例えばフィルム部門はFilm Lionsとなる。筆者が2004年にフィルム部門日本代表審査員を努めた時は、まだ7部門。その後、驚くべきペースで部門数を増やしている。
この傾向には批判もある。部門数を増やして応募を増やそうとする金取り主義では?というものだ。それに対して、運営側はつねに「複雑性を増している現実のビジネスの姿を、より良く反映するためだ」との発信を繰り返している。筆者はこの運営側の主張に、概ね賛成だ。
カンヌライオンズは、2011年にその名称から“広告”という言葉を取り去り、現在の正式名称は『カンヌライオンズ国際クリエイティビティ祭』だ。“広告”から“クリエイティビティ”へ。この頃から、新部門の増設は勢いを増した。これは、我々広告会社が直面する現実のビジネスとも呼応するものであろう。
また、増設される部門だけではなく、廃止される部門も少なからず存在する。例えば、2018年には「サイバー部門(ウェブ上の施策を対象とする部門)」が廃止された。ほぼすべてのコミュニケーション施策がウェブ上の施策を含むようになったので、独立した部門として存在させておくのは適切ではない、ということだった。同様の理由で、今年2024年には「モバイル部門」が廃止される。
“広告からクリエイティビティへ”はまた、“広告特化からビジネス一般へ”の流れとも言える。その流れにある、注目の新しい部門を1つ紹介しよう。2021年に創設された「クリエイティブ・ビジネストランスフォーメーション部門」だ。この賞は、クリエイティビティを、ビジネスそのものを変革するために活用した事例に与えられる。ここで受賞した事例は、いわば“新規事業の見本市”という側面も持っている。
2022年のグランプリ受賞作を簡単に紹介しておこう。パイナップル生産者DOLE(ドール)による「PINATEX」だ。それまで廃棄されゴミとなっていたパイナップルの葉の繊維を活用し、 “Pinatex(ピニャテックス)”というテキスタイルを開発した、という事例だ。このピニャテックスは、NIKEやBOSSにも採用され、DOLEに莫大な利益をもたらしたという。→https://www.youtube.com/watch?v=dfW-yV-zwEE
カンヌライオンズの注目部門受賞作に学んで、ご自身のクリエイティビティの新たな発揮先を模索してみては、いかがだろうか。次回も、カンヌライオンズの注目部門について、紹介して行く予定だ。
(写真②③はカンヌライオンズ2023で筆者が撮影したもの)