ストラテジスト
東京、ロンドン、パリ。3つの都市で、マルチナショナル・クリエイティブエージェンシーのストラテジックプランナーとして20年ほど勤務。
異なる文化をつなぐコンサルタント。
ストラテジスト
東京、ロンドン、パリ。3つの都市で、マルチナショナル・クリエイティブエージェンシーのストラテジックプランナーとして20年ほど勤務。
異なる文化をつなぐコンサルタント。
フランスには、古着をフリーマーケットスタイルで売ったり買ったりする習慣は昔からあり、春などによくVide grenier(「屋根裏を空にする」という意味。ガレージセールと同義)が広場などオープンスペースで行われる。ヴィンテージファッション好きは、古着を個人から預かり売って手数料をもらう古着専門店やチャリティーショップで有名ブランドの掘り出し物を見つけている。
しかし経済の低迷と環境意識の高まりとが相まり、このようにニッチだった「古着」市場が、今ファッションの世界を大きく揺るがしている。フランスの服飾販売におけるセカンドハンドの占める割合は2023年に17.8%(2019年には11.3%)に達している(ニールセン)。これはヨーロッパ内で最も高い数字である。また消費者のセカンドハンドに対する意識も明らかに変化している。これまでは新規派かセカンドハンド派かに分かれる傾向にあったのが、両方を混ぜて使うという、ミキサーと呼ばれる人の割合が28%まで増えている。そして新規派の数は減る一方。
この大きな変動の牽引役となっているのが、誰もが古着を売買できるマーケットプレイス・プラットフォーム、Vinted(ヴィンテッド)。2008年にリトアニアのスタートアップが立ち上げ、2023 年には主にヨーロッパを中心にユーザー数が1億人を超えている。そのうちの29%をフランスが占めている。そして、各国で従来の服飾リテーラー大手のZara やH&Mを差し置いて、トップまたはトップに近いポジションを獲得している。
Vintedの強みは、売るのも買うのも簡単なアプリと仕組み、幅広いユーザー層による、あらゆるニーズや欲求に応えられる豊富な品揃え、新品で定価だと全く手が出ないようなブランド品がお手頃価格で手に入る、というポイントが挙げられる。一度ハマるとやめられなくなる、もう普通の店で定価の新品は買えなくなる、と多くのユーザーは語る。エルメスのベルトやイヴ・サンローランのスカートが45ユーロで買えたら、そうなってしまうだろう。他にもセカンドハンド・マーケットプレイス・プラットフォームはあるが、敷居の低さと売り手と買い手の間にあるコミュニティー意識もVintedの特徴と言える。
また、ファッション業界が地球温暖化に大きく寄与している悪者と見られている中で、特にフランスではセカンドハンドを有効なオルタナティブと消費者は捉えている。Vintedはそういったセカンドハンドの位置付けを上手く利用し、強調することにより、ユーザーを「使い捨てるのではなく再利用しているから、環境に良いことをしている」(罪悪感がない)気持ちにさせている。
若い世代に限らず、幅広い層で受け入れられているVinted。もう一時の流行ではなく、価値観の変化に伴う古くて新しい市場である。
<参照文献>