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榮枝 洋文

榮枝 洋文

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表

海外現地法人のマネジメント歴18年(中国・広州/香港、北米・ロサンゼルス/ニューヨーク)。アサツーディ・ケイ現地法人ADK America (WPP Group)のCFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。ニューヨークの最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

共著に『広告ビジネス次の10年』『2030年の広告ビジネス』(翔泳社)がある。

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Googleによる「Cookie廃止の撤廃」のアナウンスのタイミングの直前に、Oracleは、2024年9月末をもってグローバルでの広告事業を終了することを発表している。この章で初めて本件を知ったという読者もあるくらいだろう。

Oracleの広告事業撤退が示すシグナル


■4,000億円超の広告事業投資を償却へ

 

Googleによる「Cookie廃止の撤廃」のアナウンスのタイミングの直前に、Oracleは、2024年9月末をもってグローバルでの広告事業を終了することを発表している。この章で初めて本件を知ったという読者もあるくらいだろう。

 

実際には、Oracleの公式IR資料には「広告事業撤退」に関する記述は無いままで、年次の音声アナウンスのみの「ひっそり」感である。Oracleは、自社の基幹ビジネス(本業)であるエンタープライズ・クラウドに付加価値をつける目的で、広告事業のM&A を10年以上にわたり合計約4,000億円(約30億ドル、当時の為替レート)を投下してきた。「BlueKai(2014年:4億ドル)」「Datalogics(2014年:12億ドル)」「MOAT(2017年:8.5億ドル)」「Grapeshot(2018年:4億ドル)」などは読者の記憶にもあろう。

 

Oracleは企業価値を、過去10年で約3倍の約60兆円(約4,000億ドル)にまで成長させている。その一方で撤退する広告事業は総収入で約450億円/年の程度で、営業収支は未公表(赤字と推測される)の「すずめの涙程度」の規模だ。

  

注目したいのは、買収時期だ。上記の抜粋例を見てもOracleの買収活動は2018年以降は止まっている。2018年といえば、3月にFacebookによる個人情報の不正利用「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が報じられ、5月にGDPRが施行されたタイミングだ。この辺りで「気づき」があったと伺える。

 

インターネット創世記において、「広告(マーケティング)のターゲティングが技術上(覗き見で)可能になったぞ」という幻想が抱かれていたが、今から振り返れば現在の規範に反する行為が横行していた。業界は、上記の2018年を境に「襟を正す」方向に動いてきたはずだ。Oracleも同様にシフトを始めていたと考えられる。

 

以降Oracleは2020年には広告データの取り扱いに関するGDPR違反の訴訟が欧州で提訴されたのを始め、2024年7月には米国カリフォルニア州の個人情報の侵害(ID Graphの転売)での和解金支払いと訴訟がドミノ状態で発生していた。「もう広告ターゲティング事業とは一切関係ありません」という立場を波風立てずに示すため、今回の事業撤退を「静かに」かつ「隠さず発表」したい意図背景がある。

■本来の「重たいデータ」の基点に戻ったOracle

Oracleのクラウド事業は、既に「重たいデータ(例:医療・保険・金融・教育・エネルギー)」側の本業に回帰させた。たとえば、Oracleの2024年度報告のハイライトとしてPalantir社を事例登場させている。Palantirは、主に政府系機関(米軍、国防総省、FBI、CIAなど)をクライアントに、機密案件データを扱う企業だ。また、生死に関わるデータを扱う米国最大級の非営利の医療団体Huntsville Hospital(アラバマ州)を並べて報告している。

 

デジタル上でターゲティング&マーケティングの「プラットフォーマー(=和製英語)」と名乗れるのは、今やGAFAMのような世界の数十億人規模の一般消費者に(軽く)リーチできる事業のみだ。巨人Oracleの広告事業終了は、「ポストCookie代替」と騒ぐ側への経済規模や事業方向に対する「判断区分」を与える機会となった。

Oracleの広告事業撤退が示すシグナル


■4,000億円超の広告事業投資を償却へ

 

Googleによる「Cookie廃止の撤廃」のアナウンスのタイミングの直前に、Oracleは、2024年9月末をもってグローバルでの広告事業を終了することを発表している。この章で初めて本件を知ったという読者もあるくらいだろう。

 

実際には、Oracleの公式IR資料には「広告事業撤退」に関する記述は無いままで、年次の音声アナウンスのみの「ひっそり」感である。Oracleは、自社の基幹ビジネス(本業)であるエンタープライズ・クラウドに付加価値をつける目的で、広告事業のM&A を10年以上にわたり合計約4,000億円(約30億ドル、当時の為替レート)を投下してきた。「BlueKai(2014年:4億ドル)」「Datalogics(2014年:12億ドル)」「MOAT(2017年:8.5億ドル)」「Grapeshot(2018年:4億ドル)」などは読者の記憶にもあろう。

 

Oracleは企業価値を、過去10年で約3倍の約60兆円(約4,000億ドル)にまで成長させている。その一方で撤退する広告事業は総収入で約450億円/年の程度で、営業収支は未公表(赤字と推測される)の「すずめの涙程度」の規模だ。

  

注目したいのは、買収時期だ。上記の抜粋例を見てもOracleの買収活動は2018年以降は止まっている。2018年といえば、3月にFacebookによる個人情報の不正利用「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が報じられ、5月にGDPRが施行されたタイミングだ。この辺りで「気づき」があったと伺える。

 

インターネット創世記において、「広告(マーケティング)のターゲティングが技術上(覗き見で)可能になったぞ」という幻想が抱かれていたが、今から振り返れば現在の規範に反する行為が横行していた。業界は、上記の2018年を境に「襟を正す」方向に動いてきたはずだ。Oracleも同様にシフトを始めていたと考えられる。

 

以降Oracleは2020年には広告データの取り扱いに関するGDPR違反の訴訟が欧州で提訴されたのを始め、2024年7月には米国カリフォルニア州の個人情報の侵害(ID Graphの転売)での和解金支払いと訴訟がドミノ状態で発生していた。「もう広告ターゲティング事業とは一切関係ありません」という立場を波風立てずに示すため、今回の事業撤退を「静かに」かつ「隠さず発表」したい意図背景がある。

■本来の「重たいデータ」の基点に戻ったOracle

Oracleのクラウド事業は、既に「重たいデータ(例:医療・保険・金融・教育・エネルギー)」側の本業に回帰させた。たとえば、Oracleの2024年度報告のハイライトとしてPalantir社を事例登場させている。Palantirは、主に政府系機関(米軍、国防総省、FBI、CIAなど)をクライアントに、機密案件データを扱う企業だ。また、生死に関わるデータを扱う米国最大級の非営利の医療団体Huntsville Hospital(アラバマ州)を並べて報告している。

 

デジタル上でターゲティング&マーケティングの「プラットフォーマー(=和製英語)」と名乗れるのは、今やGAFAMのような世界の数十億人規模の一般消費者に(軽く)リーチできる事業のみだ。巨人Oracleの広告事業終了は、「ポストCookie代替」と騒ぐ側への経済規模や事業方向に対する「判断区分」を与える機会となった。