September 2, 2024
広告会社は今、何に投資しているのか
広告会社は今、何に投資しているのか
片岡 真理子
ストラテジスト
東京、ロンドン、パリ。3つの都市で、マルチナショナル・クリエイティブエージェンシーのストラテジックプランナーとして20年ほど勤務。
異なる文化をつなぐコンサルタント。
フランスを象徴する建造物や文化遺産をバックドロップにオリンピック競技を行うという企画ではあったが、実際にエッフェル塔の前でのビーチバレー、コンコルド広場のオベリスクの横を宙返りするスケートボーダー...
魔法にかけられた2週間：パリ・オリンピックを振り返る
新しい施設をほとんど建設せずに、既存のフランスを象徴する建造物や文化遺産をバックドロップにオリンピック競技を行うという企画から始まったパリ・オリンピック。エッフェル塔の前でのビーチバレー、コンコルド広場のオベリスクの横を宙返りするスケートボーダー、ファッションショーのデフィレのようにグランパレの階段を降りて入場するフェンシングの選手、ベルサイユ宮殿の庭園における乗馬競技、モンマルトルやルーブル美術館の前を走る自転車ロードレースなどを実際に見せられ、感動せずにはいられないフォトジェニックなセッティングに、選手も観客も高揚した。
＜開会前のしらけたムード＞
6月の欧州議会選挙とそれを受けての国民議会解散及び総選挙は、フランス中をオリンピックどころではない雰囲気に陥れてしまった。総選挙の結果次第では、オリンピック開催中にデモやストライキが実施され、暴動が起きるかもしれないとまで報道されていた。最悪の事態は避けられたものの、以前からのオリンピックに対するネガティブな報道（観光客が溢れてパリは大混乱になる、セキュリティに対する不安、お金がかかりすぎている、など）と相まってパリ市民の多くは早めの夏休みをとり、パリを脱出した。開会式の一週間前、開会式に備えて動員された警察官の数の方が多いのではないかと思えるほど、市内は閑散としていた。
＜フランス中がスポーツに熱狂した＞
パリらしいエスプリ満載の開会式は土砂降りの雨にも関わらず大成功をおさめ、テレビでの視聴率は83.3%、フランスだけで2,440万人がテレビで開会式を見た（フランステレビ発表）。これはフランスが惜しくもアルゼンチンに負けた2022年F IF Aワールドカップの決勝戦に次ぐ二番目の数。開会式を皮切りにオリンピックへの関心は一気に高まり、フランス選手、特に水泳のレオン・マルシャンの活躍と共に最高の盛り上がりを見せる。開催期間中総合して約6,000万人、4歳以上の国民の95％がオリンピックをテレビで見たことになるとフランステレビは発表している。また会場でフランス人観客が自発的にマルセイエーズ（国歌）を歌って選手を応援したり、特設ファンゾーン「Club France」が連日連夜満員状態だった様子からも熱狂ぶりが伺える。Paris Match誌は、この二週間を「フランス人が久しぶりに心底楽しめて、フランス人であること、また国としてフランスを誇りに思えた、オリンピックマジックにかかったパロンテーズ（非日常のイベント）」と呼んだ。
＜世界中のジャーナリストも絶賛＞
ストライキやデモ、暴動、高飛車な店員、混雑して乗り切れないメトロなど、最近のパリのイメージは決していいものではなかったが、今回のオリンピックはそんなネガティブイメージを完全に払拭してしまった。世界中のジャーナリストが会場の素晴らしさもさることながら、運営面や公共の交通機関のスムーズさ、ボランティアの愛想の良さとお役立ち感、警察や軍人の存在による安心感、そして何よりもどの会場も満員に近い観客で盛り上がり、明るくポジティブな雰囲気がパリ中に溢れ出ていたことを「こんなに楽しく華やかなオリンピックは初めて」と口を揃えて褒め称えた。
＜観客動員数、経済効果＞
チケット販売数は、950万。1996年のアトランタオリンピックの830万を超えて、最高記録を更新した。パリ市観光局によると、オリンピック期間中にパリを訪れた人の数は、1,120万人。内訳は、85％がフランス人、15％が外国人（アメリカ、ドイツ、イギリスが最も多い）。ほぼ開催委員会の見積もり通りの数字と言われている。ホテルの客室稼働率も84％と2023年の同時期に比べて10ポイント増。他の開催都市（リール、マルセイユなど）も宿泊日数が16〜18％増えた。
一方、行動パターンは通常の観光客とは違い、競技会場から少し離れたエリアでの観光や食事といった行動が少なく、そういったエリアでのオリンピック効果はほとんど見られなかったという結果になっている。会場近辺での消費も食事などに関しては、出費を節約している傾向が見られた。パリ市観光局としては、オリンピック後に増えると予想される通常の観光客でこのロスは挽回できる、また今回のオリンピックでパリのイメージが数段上がった分、この先数年はポジティブな効果は続くだろうと見込んでいる。
パラリンピック中は、さらに400万人の訪問客が予想されている。この記事がアップされる頃にはパラリンピックの真っ最中だが、オリンピックの余韻を受けて再びスポーツの祭典に盛り上がるパリが見られることを期待している。
＜参照記事＞
https://www.parismatch.com/actu/sport/jo-de-paris-le-bilan-dune-parenthese-enchantee-240691
