次の10年へ向けて『広告ビジネス2030』
■10年前の業界予言
2013年、レイ・イナモト氏の『Fast Company』誌への寄稿の中で、
「The End Of Advertising AsWe Know It-And What To Do Now(広告の終焉:さらに今、出来ること)」が提唱された。2013年というと、Instagramがまだユーザー数3,000万人程だった頃に、Facebookが約10億ドルで買収した時期で、まだまだSNSの概念すら薄い頃に下記を示唆していた。
〇レイ・イナモト氏が考える「今出来ること」の要約
① インテグレートからコネクトへ:広告メディアをインテグレート(統合)するキャンペーン発想から、オーディエンス+企業+メッセージを永続的にコネクトさせる「事業」としての取り組みへ。
② ブランド側の物語から人々が中心の物語へ:カンヌで称賛を得た受賞作の数々に共通するのは、「ブランドの物語」ではなく「人々の物語」に軸がある。
③ 360°から365日へ:消費者を360°で全方位から囲い込むというのは企業側の幻想であり、無駄が多い。アイデアを多方面の媒体露出に依る基準の時代は終わっている。新時代における基準とは、永続性や志、そして社会に与えるインパクトである。
④ メディア依存モデルからビジネス発明へ:すでに広告業界はメディアに依存するビジネスモデルではない。クリエイティビティとイノベーションを用いて、見えている課題に「思いもよらない解決策」を見つけるか、見えざる「思いもよらない問題」を見つけてその解決策を提示するか、という事業創出に向かう。
いかがだろう。2023年の現在で読み返しても、レイ・イナモト氏の先見には驚く。この同時期に、筆者も横山隆治氏と共著で『広告ビジネス次の10年』を「広告マンの8割はいらない」という帯で発刊していた。上記紹介のレイ・イナモト氏の視点と重なる点がある。
たとえば、「IT、コンサルティング系企業が、異業種ながら広告・マーケティング領域に参入してくる」と指摘していた。これは、コンサル系企業の「Accenture」「Deloitte」「PwC」「IBM」などがマーケティング事業領域に台頭する以前の指摘だった。現在コンサル企業が、システムインテグレーターとしての強みを持ちつつマーケティング領域に進出している様子は、レイ・イナモト氏が指摘していた「メディア依存からビジネス発明へ」の示唆に近い。「広告業界という「業界」はなくなる」という切り口での、今年版『広告ビジネス2030』の拙著発刊をお楽しみに。