ソリューションユニット フェロー/
ひと研究所 所長
2009年ビデオリサーチ入社。広告会社や広告主をクライアントとしたリサーチの企画・分析部門や、若者研究チーム参加を経て「ひと研究所」に参画し、 2024年より現職。「生活者のメディア行動」をテーマに研究・発信活動を行いながら、クライアント個別課題の調査実施・分析に携わる。修士(社会学)、専門社会調査士。
前回の記事「インターネット広告の存在感と生活者視点での課題」では、ブランドセーフティの観点から、生活者視点での広告の課題について論じました。今回はより広く、そもそも生活者が「広告」を受け入れ、見てくれるかどうかという視点で考えてみたいと思います。
広告に囲まれた生活者の「広告受容性」を考える
■広告接触の増加と「広告受容性」
前回の記事「インターネット広告の存在感と生活者視点での課題」では、ブランドセーフティの観点から、生活者視点での広告の課題について論じました。今回はより広く、そもそも生活者が「広告」を受け入れ、見てくれるかどうかという視点で考えてみたいと思います。
インターネット上のサービスの拡大・普及に伴いメディア接触も多様・複雑化してきました。その結果、生活者の接触する広告もまた多様・複雑化してきました。同じテレビ番組であっても、テレビ放送、TVer、有料動画配信と複数の視聴方法があります。さらにはYouTubeで見ることができる場合もあるかと思います。どの方法で番組を見るかで、接触する広告の入り方、見方なども異なります。さらに、テレビモニター、スマートフォンといったデバイスの違いや、世帯状況(家族と同居、一人暮らしなど)も含めると、広告接触環境は非常に複雑で多様になります。
このような多様な広告接触環境を背景として、生活者に受け入れられる広告がどのようなものかを考えるためには、基準となる指標を設定する必要があります。ビデオリサーチひと研究所では、キー概念として「広告受容性」というものを設定しています。これは、広告を回避したいと思う気持ちが小さい、実際の回避行動をしない状況を“広告を受容している”と考えるものです。広告の回避行動には「目を背ける」、「他のことをする」、「スキップボタンを押す」などが含まれます。生活者は、さまざまな環境や条件のもと広告に接触していますが、この条件次第では、強く“広告を回避したい”と思う場合があります。ひと研究所では、この点に注目して研究をすすめています。
■広告受容性が高いのはどのような時か
ここからは、生活者のどのような条件下で広告受容性が高まるのか検証した結果をいくつかご紹介します。なお、調査では「広告をスキップしたい、無視したい、避けたいと思う気持ちの有無」を調査し、非該当の程度を「広告受容性」として定義しています。例えば、“広告を回避したい”という項目に対して「そう思った」のスコア合計が40%の場合、広告の受容性は60%と定義されます。また、参考指標として広告の侵入感(広告が煩わしい、広告で注意をそがれる、広告が目障りに感じる)も同時に聴取しています。
① “テレビモニター”が広告の受容性を高める
コネクテッドTV(CTV)の普及に伴い、インターネット動画広告においても「テレビデバイス」での視聴と「スマートデバイス」での視聴の違いに注目が集まっています。広告受容性に違いがあるのか検証した結果、スマートデバイスと比較して、テレビデバイスの方がインターネット動画広告の受容性が高い傾向がみられました(図1)。画面サイズ、視聴環境、視聴目的の違いなど、要因はさらに研究が必要ですが、CTVでの広告のさらなる発展の可能性が感じられる結果と言えます。

(テレビデバイスとスマートデバイスの比較)
② “コンテンツを邪魔しないこと“が広告の受容性を高める
デバイスだけでなく、動画広告の“入り方”にも注目しており、ミッドロール広告(動画本編を中断して流す広告)の挿入の仕方と広告受容性との関連を検証する実験調査も行っています。
調査回答者に、2つの広告映像(CM1、CM2、各15秒)が入れられた映像コンテンツを提示し、視聴後に、広告についての評価を聴取しました。実験では、ミッドロール広告を想定して映像コンテンツの途中に広告を挿入しましたが、コンテンツの切れ目に広告が提示されるパターンAと、コンテンツの流れを遮って広告が提示されるパターンBの2パターンについて、広告評価を比較しています(図2)。

分析の結果、パターンA(切れ目に広告提示)よりもパターンB(流れを遮って広告提示)の方が、広告の受容性が低くなっています(図3)。つまり、コンテンツ本編の視聴体験を損なうようなタイミングでの広告挿入では、広告受容性が低下してしまうことになります。逆に言えば“コンテンツを邪魔しないこと“が広告受容性を高める可能性があると解釈できる結果です。誰もが生活者としての主観では感じていることかと思いますが、定量的な検証でも示された結果といえます。

(パターンAとパターンBの比較)
③ “共視聴”が広告の受容性を高める
最後に、地上波テレビの視聴に注目し、「共視聴」が広告受容性に与える影響を検証した結果です。共視聴者(「誰かと一緒に見ることがほとんど」または「誰かと一緒に見ることの方が多い」と回答した人)と、ひとり視聴者(「ひとりで見ることがほとんど」または「ひとりで見ることの方が多い」と回答した人)の地上波テレビCMの評価を比較しました。分析の結果、共視聴者の方が、広告受容性が高くなっています(図4)。テレビを共視聴するかどうかは年代によって影響を受けると考えられるため、15~39歳と40~69歳と年代を分けて分析していますが、広告受容性に大きな違いはありませんでした。つまり、“共視聴”状況での広告接触が、広告受容性を高める可能性があると解釈できる結果です。

(共視聴者とひとり視聴者の年代別比較)
■生活者の広告受容性に対する理解を高めていく必要性
このように、「デバイス」「広告挿入の仕方」「共視聴」が広告の受容性に影響をおよぼしている可能性があることが分かりました。広告効果の検証においては、基本的に“広告効果の高さ”を確認することになりますが、生活者の視点に立てば、それ以前に「広告」が表示されること自体を受け入れられるかどうかが広告効果の前提となります。接触する情報やコンテンツ量が増加し、その中で広告への接触も大きく増加してきている状況において、生活者にとって受け入れやすい広告がどのようなものなのか、より解像度を高めた理解が必要であると考えられます。ビデオリサーチひと研究所では、前回記事の「ブランドセーフティ」と同様に、生活者の広告体験について研究を継続的に行い、このような知見を提供していきたいと考えています。
【ひと研究所 広告研究調査2023年7月 調査概要】 ①のデータ出典
調査日:2023年7月21日(金)~7月22日(土)
調査手法:web調査
調査エリア:全国
サンプルサイズ:828
対象者属性:男女15~69歳
【ひと研究所 広告研究調査2023年12月 調査概要】 ②③のデータ出典
調査日:2023年12月8日(金)~12月9日(土)
調査手法:web調査
調査エリア:全国
サンプルサイズ:1,600
対象者属性:男女15~69歳







