ファンダムコミュニティという言葉がある。熱心なファン同士で形成されたコミュニティ。その心をつかむ広告をつくるなら、データを見るよりも近道がある。ファンのいる場所に行って、熱量たっぷりの声を聞くことだ。
ファンダムコミュニティ
ファンダムコミュニティという言葉がある。熱心なファン同士で形成されたコミュニティ。その心をつかむ広告をつくるなら、データを見るよりも近道がある。ファンのいる場所に行って、熱量たっぷりの声を聞くことだ。
わたしが福岡の大学から就職のために上京し、初めて住むことにしたのはシェアハウスだった。あのリアリティショーをイメージするかもしれないが、そこにはちょっと変わったコンセプトがあった。それは「バイクライダーのためのシェアハウス」。
玄関を開けると大きなバイクがディスプレイされており、リビングの本棚には約1,000冊の専門誌が並び、誰でも使える整備室だってある。ハーレー、ホンダ、カワサキ、たくさんのバイクに囲まれて、愛車を磨いている住民と挨拶を交わす。そんな毎日がこのシェアハウスにはあった。
とはいえ、わたし自身バイクに興味があったわけではない。ちょっと変わったコンセプトを見て「酒のつまみになる経験ができそうだな」(家探しするのが面倒)という不純な動機で入っただけだった。社会人になりたてであり、女性であり、バイクの免許を持たない新参者は、よく住民にもびっくりされた。そんなわたしに「バイクのよさは感じるもの」だと語る住民は、ときどき後ろに乗せてドライブに連れていってくれた。
住民「風が気持ちいいでしょー!」
前田「いいですねえー!」
住民「バイクがあれば、ちょっとそこまでの世界がひろがるのよ!」
前田「ちょっとそこまで?」
住民「夏休みに自転車でどこまで走れるか、試したことない?」
前田「あー!あの冒険感覚だ!」
住民「免許取る気になったか!」
前田「でも◯◯さん骨折してたしなー!」
そんな住民が引っ越す時、わたしは『かもめのジョナサン』という小説をもらった。かもめらしくやるべきことをこなすより、どこまでも自分の好きなことを追求して生きる主人公の物語だ。「本当のよさがわかるのは、社会の荒波にもまれて30歳になったとき。その頃に読みなさい」そう言って渡された本は、いまも部屋の本棚に置いてある。
あのジョナサンが群れから離れてひとりになってでも、自分の飛ぶ技術を追求した理由はデータじゃわからない。だから一緒に話して、同じ体験をして、その熱量の理由を見つけにいく。そんな感覚を、広告をつくる時も忘れずにいたい。