ピープルマネジメント本部
神戸大学教育学部卒、教育心理学専修。企業のブランディング/マーケティング支援に長年従事。FMCG、通信インフラ、不動産、万博事業など幅広いカテゴリーにおいてクライアント企業と顧客をつなぐ仕事に関わる。
マーケティングと営業職を経て2022年1月から人事部門である現職に。趣味は、太極拳と自転車と旅行。
私は大学生の時、教育学を専攻し教育実習で小学1年生を担当しました。じっと座っていてもらうことの方が大変な生徒たちに1+1=2や上位概念・下位概念についてどうやって教えればいいんだ、と頭を抱えました。
奇跡の教室
エチ先生と『銀の匙』の子どもたち
著者:伊藤氏貴 発行:小学館

私は大学生の時、教育学を専攻し教育実習で小学1年生を担当しました。じっと座っていてもらうことの方が大変な生徒たちに1+1=2や上位概念・下位概念についてどうやって教えればいいんだ、と頭を抱えました。子供たちは自分が興味を持つことには勉強と思わずに目を輝かせて取り組みますが、つまらないとすぐに遊び出すのでこちらの力量がすぐ分かりますね。「授業というのは、なんとクリエイティビティが求められることか」と実感しました。広告会社に就職してマーケティングに携わってからもこの実体験は活きたと思っています。
私が皆さんにお勧めする「奇跡の教室」には、戦後、「公立校のすべり止め」と揶揄された灘中学校で、国語教師・橋本武先生(通称エチ先生)が、たった一冊の文庫本『銀の匙』を3年間かけてじっくり読み込む、型破りな授業が紹介されています。その感性と想像力を育む授業には、私たち広告/マーケティングビジネスに携わる者にも共通する大切な価値観があると思い、同業界の仲間である皆さんにご紹介します。
具体的な内容に少し触れておきます。例えばある日の授業では先生から全員に駄菓子が配られます。『銀の匙』で主人公が駄菓子屋に行く場面を追体験する工夫です。先生が用意してくれた駄菓子を食べながら朗読を聞く。主人公が飴を噛み折るシーンになると教室のあっちこっちから、飴を噛み折る音が響く。「普通なら飴を噛み折る音って『ぽきん』『ぱきん』というかもしれないけど、確かに『こっきり』の方が優しくて、甘い味の感じが出ているなあ」(奇跡の教室より)と生徒である一人の少年が感じるわけです。
『銀の匙』授業3巡目の昭和43年卒の世代は「私立校として初めて東大合格者数日本一」を達成し、その同窓生には東大総長、副総長、神奈川県知事など、社会の頂点で活躍する人物が多く含まれます。本書では、そんな伝説の授業の“なぜ”と“どうやって”を、橋本先生自身と教え子たちへの1年に及ぶ取材を通じて紐解いています。
私は広告業界の仕事というのは、情報の受け手が「興味を起こして自ら入り込んでいく」「主体的に想像を広げる」ことを創造する数少ない職業だと考えています。広告の世界で創造力を磨き続ける私たちにとって、多くの示唆を与えてくれる一冊です。








