テレビ・メディアコンテンツユニット
エグゼクティブプロデューサー(ひと研究所 主任研究員)
2000年ビデオリサーチ入社。国際事業部門、日本コンテンツ海外チャンネル出向を経て、2018年より現職。現在は大規模生活者プロフィールデータ(ACR/ex)の事業統括並びにメディア・コンテンツ・バリュー指標開発に従事。
今回は生活者総合調査ACR/exデータより、50%以上の生活価値観項目をもとに、“いまどき”の価値観をご紹介します
いまどき生活者のリアル ――タイパ、自分投資、自分らしさ、そして社会性
~2025年ACR/exから読み解く生活者「価値観」の現在地~
今回は生活者総合調査ACR/exデータより、50%以上の生活価値観項目をもとに、“いまどき”の価値観をご紹介します

「便利なものは積極的に取り入れて、時間もお金も効率よく使いたい」。
そんな思いを持つ人が、最新の2025年度ACR/exからはっきりと見えてきます。家事の時短グッズや電子レンジ、調理済み食品を抵抗なく受け入れる人は8割を超え、クーポンやポイントを活用するお得志向もすでに一般的になりました。かつては“手抜き”と見られがちだった行動も、今では「合理的でスマートな選択」として肯定される時代になったといえるでしょう。ここには、いわゆるタイパ(タイムパフォーマンス)意識が確実に根付いていることがわかります。
この「効率化の流れ」をさらに後押ししているのが、生成AIの拡がりです。利用経験者は2024年の28%から2025年には39%へと増え、「これから使ってみたい」と考える人は52%にのぼりました。特に20〜40代の比率が高く、日常生活や仕事の効率化を目的にAIを取り入れる姿が見えてきます。利用者の構成をみると男性が6割を占めていますが、女性の利用意向も4割を超えており、今後はさらに幅広い層に広がっていくと考えられます。生成AIは、まさに“新しい時短ツール”としてタイパ美学の支持を集め始めているのです。

一方で、生活者の関心は効率化だけにとどまりません。健康意識は高まり、歯や心のケアにまで目を向ける人が増えています。教育への投資にも前向きで、「大学を卒業させたい」「英語を学びたい」と答える人は6割を超えました。さらに、スキルアップや自己研鑽に取り組みたいと考える人も半数以上にのぼります。これらはまさに自分投資意識の高まりを示しており、忙しい中でも未来の自分を育てたいという気持ちがうかがえます。
その根底には、「自分らしく生きたい」という価値観があります。ファッションを通じて個性を表現し、自分らしくいられるものを選びたいと考える人は9割近くに達しました。生活全般においても、富や名声より自分に合った生き方を優先する人が多数派です。ワークライフバランスを大切にし、無駄を削ぎ落としたシンプルな暮らしを志向する。こうした姿勢は、自分らしさ意識が広く根付いていることの表れといえるでしょう。従来の「成功」や「出世」といった外的評価から少し距離を置き、心地よさや等身大の暮らしを大切にするライフスタイルが広がっています。
さらに注目したいのは、このような“自分志向”と同時に、社会への関心も高まっている点です。エコバッグの利用や省エネ行動はすでに習慣として定着し、家族とのコミュニケーションを大切にする人も7割を超えています。少子高齢化や社会格差に不安を感じる人も多く、社会課題を「遠い問題」ではなく「自分ごと」として受け止める姿勢が見えてきます。
まとめると、現代の生活者は「タイパ美学」「自分投資」「自分らしさ」「社会性」という4つの価値観を同時に抱えながら暮らしているといえます。その中で生成AIは“次世代の効率化ツール”として受け入れられ、生活の質を高める手助けになりつつあります。効率よく時間を使いながら未来の自分に投資し、無理のない範囲で個性を大切にしつつ、環境や社会にも目を配る。かつては相反すると考えられていた要素が、今は自然に共存しているのです。
このバランス感覚こそが、これからのライフスタイルを読み解くカギになっていくのではないでしょうか。