DXコンサルティング本部DXコンサルティング局
シニアマネージャー/チーフAIストラテジスト
大手コンサルティングファーム、クリエイティブ系法人向けスタートアップを経て、現職。メディア、Webサービス、通信、エネルギー業界を中心に、DX企画、AI実装、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。 コンサルティング活動の傍ら、社内DX部門にて外部情報発信やAI系スタートアップとの協業に従事。クリエイティブ系法人向けSaaS企業にてCustomer Successを立上げ、契約更新率の大幅改善を達成。新規プロダクトの立ち上げ等も主導。現職においてはDXコンサルティング事業/組織の立ち上げを主導しながら、プロジェクトリード、及び、ブランディング/マーケティング活動に従事。また、博報堂DYグループでAI活用を進めるHCAI Instituteへ所属。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)。
「うちは遅れているように思うが、何から手をつければ良いのか?」「どのユースケース(AIの使い所)から始めるべきか?」本稿では、マーケティング組織へのAIコンサルティングでもっとも多く聞かれるこれらの質問に正面から向き合い、答えの考え方と推奨する2つのユースケースを紹介したい。
第2回 いまさらだけど、どこから始めればいいのだろう?
〜マーケティング組織でのQuickWinをどこで作るか?〜
「うちは遅れているように思うが、何から手をつければ良いのか?」
「どのユースケース(AIの使い所)から始めるべきか?」
本稿では、マーケティング組織へのAIコンサルティングでもっとも多く聞かれるこれらの質問に正面から向き合い、答えの考え方と推奨する2つのユースケースを紹介したい。
ここでは、単純なROIの計算を超えた戦略が必要だ。インパクトの大きさや実現容易性という観点だけでは不十分で、より組織論に踏み込んだ戦略が求められる。
一体、どの業務からAI適用を考えるべきだろうか?
いわゆる「Quick Win(素早く成果を出せる取り組み)」からはじめて、現場とマネジメント層の双方の理解と気運を高めながら、二の矢三の矢となるユースケースへと連鎖させていく――これは鉄則である。特にAI活用が遅れていると感じられている組織にとってもっとも重要なのは、「自分たちはやれる!」という感覚、すなわち組織的自己効力感を取り戻すことだ。そのため、早期にQuick Winを実現できるかどうかが、その後のAI活用を大きく左右する。
だが、そのQuick Winを何に定めるか?という点については、実は一筋縄ではいかない。ここには戦略的思考が欠かせない。
例えば、Quick Winは、十分に口コミを生み出せるユースケースである必要がある。従業員の間で「AIでこんなことができるんだ!」という驚き、感動が自然と広がっていくような、そんなユースケースでなければ、次の施策にはつながりにくい。そのため、そんなユースケースに見せられる、伝えやすいアウトプットを生み出せるかどうかが鍵となる。
さらに、AI活用に不慣れな組織に共通する課題として、AIに対する適切な期待値を持ちにくいという問題もある。加えて、AIとの適切なコミュニケーション方法、業務プロセス設計、指示の出し方などに従業員がまだ慣れていないという障壁もあるため、これらにも注意を払って適用する業務を見極めることが肝要だ。
「のびしろQuick Win」を見つけよ
ここでもう一つ、見落とされやすい視点を提案したい。それが「のびしろQuick Win」だ。Quick Winは、単に素早く小さな効果が得られるだけでは不十分である。その先に議論を生まなければ意味がない。そのためには、「これができるということは、これもできるんじゃないか?こっちの人も使えるんじゃないか?」という連鎖的な進化が思い浮かぶかが重要なのだ。これは、組織全体の機運が高まった結果、新たなAI活用を模索する、という話だけではない。導入後、Quick Winとして選んだユースケース自体が、より直接的にどんどん進化していく、そんなのびしろを持ったユースケースを選ぶべきだという話だ。
例えば、会議の文字起こしから議事録を作成するというユースケースがあったとしよう。これがQuickにWinを生んだとしても、そこで終わりでは熱は伝播しづらい。ここから一歩先へ、議事録が書けるならアクションリストもAIで作れるかもしれない、さらにはタスク管理やリマインド機能へと発展できないか?という具合に、業務プロセスの前後への拡張や対象者の拡大を自然と検討できることが大切だ。
同じユースケースの品質や精度を向上させるという(=精度を深化させる)ベクトルよりも、小さな効果となるWinが生めたら適用業務や対象者を拡大する(=適用する業務スコープ拡張する)方が、周囲を巻き込むモメンタムは生まれやすい。
このように、定量的なROIだけでなく、より定性的な視点からも検討する必要がある。
最初に取り組むべき2つのユースケース
考え方は理解したけれど、結局どこから始めればいいのか?と、そう思っている方もいるだろう。
そこで具体的に、AIに不慣れな組織や従業員でも良いアウトプットを出しやすく、期待値を超えやすく、口コミを生みやすく、そして「のびしろ」が見えやすい。そんな2つのユースケースを提案しよう。
1. コンテンツマーケティング:記事ドラフティング
1つ目は「記事コンテンツのドラフティング」だ。インタビューの文字起こしや既存の社内資料(提案書なども活用可能)を生成AIツールにアップロードし、事前に用意したプロンプトで指示を出す。すると、AIが記事ドラフトを素早く作成してくれる。
プロンプトには過去の記事サンプル、守るべき文体ルール、文章量などを明記することで、自社にあった文章を生成できる。さらに、記事のトピックごとに大まかな章立てをプロンプトに含めることで、品質も向上するだろう。
この記事ライティングというユースケースは、昨年半ば頃からのLLMの進化により、実用段階に入ったと実感している。
当社で複数回実施したテストでは、同じインプットを従業員とLLMに与え、それぞれに記事の初稿を書かせてみた。平等かつ多面的に評価した結果、少なくとも「人間だけが優れている点」は見当たらなかったこともある。実際、当社の一部門ではこのアプローチにより、コンテンツ制作の外注費を40%削減することに成功した。 (※1)
もちろん、従業員のライティング熟練度やコンテンツのテーマによっても変わる。しかし、コンテンツ制作リソースが潤沢ではない企業が多い現状を考えると、少なくとも試してみる価値は十分にあるだろう。
ポイントは2つある。1つ目は、インプットをきちんと用意してAIにストーリー化させる方が、テーマだけ与えて一から創作させるよりも現状は実用性が高いということ。2つ目は、あくまで初稿として捉え、人間の編集者がチェックする体制を維持することだ。8割の品質のアウトプットを素早く量産し、残りの2割は人手で担保する方が実効性は高い。
2. 調査業務(Webや文献)
2つ目は「調査業務」だ。特に従業員がWebで検索している競合サービス調査、ターゲット顧客調査、市場調査などが対象となる。
ただし、Quick Winを実現するために、最初はスコープ外としてもよい領域がある。もちろん、これらが実現できないと言っているわけではない。あくまで、最初の1ヶ月で成果を出すことに集中するための戦略だ。
- 社内資料などの非公開情報の調査:これを実現しようとするとRAG(Retrieval-Augmented Generation)等と呼ばれるデータ検索の仕組みの構築が必要となる。
- 特定のアカウントがないと閲覧できないWeb調査:SNS内の情報探索などがこれの筆頭である。
- 調査結果を社内で使っている任意の形式にまとめること:例えば、何かの事例集をExcelにまとめる等は、特化した追加ツールを作る必要があるケースがある。
しかし、これら以外の調査業務でも十分な効果が得られる。
調査系のAIツールは、ChatGPTやGeminiが提供するいわゆる「Deep Research」(※2)のような機能を使えば、指定したテーマについて自律的に様々なWebページを参照し、調査結果をまとめてくれる。制約はあるものの、その調査品質は、私自身の経験に照らし合わせても、遜色ないレベル…いや、超えていると感じることさえある。
AI活用の第一歩を踏み出し、組織変革の起爆剤を創ろう
これら2つのユースケースをまだ社内で実装できていないなら、ぜひここからチャレンジしてほしい。AIの実力を社内で体感する良い機会となり、さらに高度なAI活用への弾みになるだろう。
<参考資料・出典>
※1
参考記事:https://digiful.hakuhodody-one.co.jp/blog/185446556573
※2
ChatGPT(openAI):https://openai.com/index/introducing-deep-research/
Gemini(Google):https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/technology/gemini-advanced-deep-research/