DXコンサルティング本部DXコンサルティング局
チーフAIストラテジスト
大手コンサルティングファーム、クリエイティブ系法人向けスタートアップを経て、現職。メディア、Webサービス、通信、エネルギー業界を中心に、DX企画、AI実装、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。 コンサルティング活動の傍ら、社内DX部門にて外部情報発信やAI系スタートアップとの協業に従事。クリエイティブ系法人向けSaaS企業にてCustomer Successを立上げ、契約更新率の大幅改善を達成。新規プロダクトの立ち上げ等も主導。現職においてはDXコンサルティング事業/組織の立ち上げを主導しながら、プロジェクトリード、及び、ブランディング/マーケティング活動に従事。また、博報堂DYグループでAI活用を進めるHCAI Instituteへ所属。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)。
AIとの共創が生む「思考の均質化」というディストピアを克服するために、我々はどう組織を設計すべきか。手をこまねいているわけにはいかない。
第10回 組織の思考が均質化するディストピアに抗う、2つのアプローチ
AIとの共創が生む「思考の均質化」というディストピアを克服するために、我々はどう組織を設計すべきか。手をこまねいているわけにはいかない。
本稿では、この深刻なリスクへの対抗策として、システム設計と人材開発という2つのアプローチを提示したい。
そもそも、均質化がいつも悪ではない
まず大前提として強調しておきたいのは、均質化そのものが悪ではないという点だ。例えばリスクを最小化すべき定型業務では、むしろ均質化は歓迎すべきものである。どのビジネスモデルであれ、企業活動の中には必ず均一性が求められるプロセスが存在するだろう。
問題は、この均質化の波が、創造性が生命線となる領域にまで無分別に押し寄せることにある。おそらくこの記事を読まれているマーケティング部門の方々には、そのような領域がすぐに頭に浮かぶことだろう。
必要なのは、業務ごとに「均質化してもよい領域」と「してはいけない領域」を明確に見極め、後者については意図的に均質化を防ぐ仕組みを構築することである。
アプローチ① システム開発—独自AIソリューションの構築
興味深い事例を紹介しよう。ある企業では、コンセプトメイキングなど創造性が不可欠な業務において、独自のAIソリューションを開発している。キャンペーン企画やサービスコンセプトの立案といった、絶対に均質化させてはいけない業務に特化したシステムを思い浮かべてほしい。
このシステムの特徴は、一般的なAIツールとは真逆の設計思想にある。
AIは答えを出さない。むしろ「この観点から考えてみろ」「その前提は本当に正しいか」「競合はどう考えるだろうか」といった問いを投げかけ続ける。人間の認知的負荷をあえて上げることで、思考を活性化させる仕組みだ。
また、人間が考えたコンセプトに対する検証機能も担う。例えば、調査データと照らし合わせて人間の仮説の妥当性を検証する。自社の独自データを参照させることで、世の中の均質化された「最大公約数的な回答」から距離を置くことも目指している。
つまり、ここでのAIは答えを与える存在ではなく、人間の創造性を引き出し、その質を高める機能を担うのである。
このアプローチの要諦は、均質化してはいけない業務において、従業員に汎用AIをあえて”自由には使わせない”という発想にある。
アプローチ② 人材開発―批判的思考とAIリテラシーの醸成
だが、システムだけでは不十分だろう。現実には、ChatGPTやGemini、Copilotといった汎用AIツールを個々の従業員が日常的に使う時代は、すでに到来している。一人一人がこれらのツールと向き合いながら業務を進める以上、人間側の教育と組織文化の変革も不可欠となる。
まず必要なのは、AIに対する適切な「パーセプション」の確立だ。AIは神様、正解、賢者などと捉えられてはいけない。あくまで思考のパートナーであり、決して思考を委ねる対象ではない。この認識を、口酸っぱく組織全体で共有し続けることが出発点となる。
考えてみれば、世の中のテクノロジーはますます日々の意思決定を楽にする方向へと進化している。生活の中の細かな判断や思考を、テクノロジーに委ねることが当たり前になりつつある。放っておけば、人間は均質化の流れに飲み込まれるのは必然だろう。
だからこそ、仕事においては意識的にこの流れに逆らわなければならない。
具体的なAI活用のテクニックも重要だ。創造性を高めるための使い方を身につける必要がある。
例えば、自分のアイデアをAIに全否定させるという使い方だ。「このコンセプトの致命的な欠陥を5つ挙げてください」といった具合に、あえて批判的な視点を求めるのだ。人間は自分のアイデアに愛着を持ちやすく、客観的な評価が難しい。AIという第三者の視点から徹底的に批判してもらうことで、思考の死角を発見できる。
また、AIに考えるべき観点を洗い出してもらうのも効果的だ。「この企画で考慮すべき観点で、まだ検討していないものは何か」といった形で、思考の枠組みを拡張する。
こうしたテクニックは、AIを「答えを出す道具」としてではなく、「批判的思考を促すツール」として活用する方法である。人間の思考に潜むバイアスを突破し、より多角的で深い洞察を得るための武器として使いこなすのだ。
マーケティング部門は「課題先進領域」である
この課題において、マーケティング部門は企業活動全体の「課題先進領域」と位置づけられるのではないかと思う。なぜなら企業活動において、最も均質化が許されない領域の一つだからだ。すなわちマーケティング部門はこの課題にいち早く、最も深刻に直面する部門なのである。
だからこそ、企業全体においても重要な部門であると言える。多かれ少なかれ企業活動全体—あるいは人類全体—が直面するこの課題の解決策を見出す先駆者となり得るからだ。
人間の創造性という代替不可能な価値を守り抜きながら、AIの力を最大限に活用する。このパラドックスに満ちた課題こそ、今マーケティング組織が直面している最大の挑戦である。同時に、この挑戦を乗り越えることで、企業活動全体のAI共創のあり方を示すという、重要な使命を担っているのだ。







